体験記

クリエイト速読スクール体験記 '00

文章演習講座 -古賀義将作品-

(第1稿)
「国の不妊症対策」について

古賀 義将

 現在、日本には不妊症のため、子宝に恵まれない夫婦が全世帯数の約一割もいる。にもかかわらず、国の高度生殖医療に取り組む姿勢は米国と比べ劣悪で、この問題に真剣に取り組むようすはない。

 不妊症は病気と認められない。保険による治療の適応外となり、一回の体外受精には約一〇〇万円という莫大な資金が必要となる。手術による成功率は三〇%以下と、極めて低い。一回で妊娠するという保証はどこにもない。二回も、三回も挑戦し、二〇〇万も三〇〇万もかけて結局あきらめる夫婦も多々いる。

 体外受精でどうしてもうまくいかない場合は代理母制度がある。代理母の子宮に不妊夫婦の体外受精卵を戻し、出産してもらうのである。現在、不幸にも日本の法律で認められていないため、この制度を利用するのには、米国まで行かなければならない。費用は一、三〇〇万もかかる。この方式にも成功の保証はない。一般的なサラリーマンにとって、二度も三度も挑戦することは不可能なことなのである。

 国は少子化現象に頭を悩ませ、いろいろな対策を立て、それに予算を出している。子供のいる九割の夫婦にはさまざまな子育て支援をしている。子供をつくれる夫婦にはつくりやすい社会環境を整えるため、育児休暇制度等の援助対策も進めている。子供をつくれないが、子供が欲しい、つくろうと日夜貯金に励んでいる一割の夫婦には何の支援もない。妊娠した後にかかる負担やお金は不妊治療に莫大な資金をかける夫婦であっても、無料で妊娠をする夫婦であっても全く変わらない。不妊夫婦は少数派であるという理由だけで、国からないがしろにされ、何の措置もされずにいるのである。

 不妊症を病気と認め保険の適用内とし、助成制度等も充実させるべきではないだろうか。経済的にも援助をし、不妊夫婦にも子供を生みやすい環境の整備をし、高度生殖医療の研究費をもっと国がみるべきである。例えば、倫理的に問題だから代理母は認められないという発言をする人々は、不妊で悩む人々のことを全然考えていないのではないだろうか。厚生省の役人や政治家の方々は不妊治療の現場に足を運んだこともないであろう。不妊の問題は厚生省の会議室の中で発生しているのではなく、現場で発生しているのである。目に涙を浮かべ、真剣な顔でメモをとりながら、病院の先生から治療の説明を受けているご婦人方の姿を一回でも見たことがあるのであろうか。人ごととして考えるのでなく、少数派であるから問題にする必要もないと言うのでもなく、もっと深刻に考えるべきである。

 コインロッカーに子供を捨てた母親の話等を耳にする機会があるが、不妊母のように、本当に子供が欲しいと思っているご婦人方はこのような事件を絶対に犯さないであろう。また、そのような夫婦であれば、子供に愛情をかけ、大切に育てるはずだから、現在、発生している青少年による犯罪も、このような家庭で育った子供とは無関係であろう。

 少子化に頭をかかえる国も、子供を作れる九割の家庭への援助ばかり考えているのではなく、一割の不妊夫婦のことも考え、対策を練れば、少なくとも現在より五%は出生率が上がり、多少なりとも少子化現象の歯止めになるのである。

 高齢化に目を向けた福祉事業も重要である。少子化に目を向けた援助対策も大切である。だからといって不妊問題をないがしろにしてよいというわけではない。国の責任における環境問題によって不妊になった夫婦も多数いるのである。国も人ごととして考えるのでなく、少数派であるから問題にする必要もないと言うのでもなく、もっと深刻に考えるべきである。

↑このページのトップへ

(第2稿)
「国の不妊症対策」について

古賀 義将

 現在、日本には不妊症のため、子宝に恵まれない夫婦が全世帯数の約一割もいる。統計では、およそ二〇〇万組が悩んでいるといわれている。出産適齢期のカップルの四組に一組もの人々が該当するのである。

 私たちにとって、結婚、妊娠、出産そして育児というのはこの上ない喜びであり、幸福の一つの要素であろう。しかし、多くの人が夢を叶えられずにいるのである。

 不妊症とは生殖可能な年齢にある男女が正常な性生活を営んでいるにもかかわらず、二年以上経過しても妊娠しない状態をいう。

 原因は大きく分けて二つあるといわれている。

 一つは現代社会の変化である。女性の高学歴化が進み、幅広く女性が社会で活躍するようになり、結婚年齢が高くなったことと深く関係がある。二〇から二四歳の女性が結婚した場合、一年以内の妊娠率は九〇%以上だが、年齢が上がるにつれて低下し、三〇歳代後半では六五%にも落ちる。高年齢になればなるほど、妊娠率は低下するのである。

 もう一つは環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)の人体への蓄積によるものである。主として、廃棄物の燃焼過程で非意図的に生成されるダイオキシン類は、男性においては極端な精子減少の原因となる。女性においては、子宮の内側にある内膜が内側以外の部分に癒着して、そこに増殖してしまう「子宮内膜症」の原因となる。「精子減少」も「子宮内膜症」も現代社会が作り出した環境ホルモンによる不妊症の原因の代表的なものなのである。

 性別に見ると、男性側が原因となる場合が三二%、女性側が六八%となる。

 最近、新聞や雑誌、テレビなどのメディアで、不妊に関する報道は増える一方である。九八年の「人口動態統計」によれば、一人の女性が一生に産む子供の平均数は一・三八人と、過去最低を更新した。少子化問題の要因の一つとして不妊があるのだが、不妊に関する報道が増えたことは、少子化問題と不妊の間に密接なつながりがある証拠の一つであろう。出生率低下は超高齢化社会を迎える日本の将来にとって、暗い影を投げ落とすとまでいわれており、不妊に関する報道はますます増えると思われる。

 少子化に対する取り組みが急務の日本では、子供を望む人が希望通りに妊娠されることは、国策にもかなうことなのである。その意味で、厚生省主体の不妊相談センター事業が広く展開されようとしている。しかし、国の対応はまだまだ不十分である。

 不妊症は病気と認められない。保険による治療の適応外となり、不妊検査に二〇万くらいの費用がかかる。夫の精液を妻の子宮内に人工的に注入する人工授精の手術で、三〇万円の費用がかかる。人工受精でうまくいかないときは、体外受精という方法がある。体外受精には約一〇〇万円という莫大な資金が必要となる。体外受精をするとき、排卵誘発剤を使用する。一回の排卵で通常一ヶの卵子しか採取できないのだが、この薬により七、八ヶの卵子を採取することができ、複数の受精卵を試験管で作ることができる。二、三ヶの受精卵を子宮に戻し、残りは冷凍保存し、失敗しても次回解凍して子宮に戻すことにより、卵子採取の手間がない分、二回目は費用も安くすることができるのである。しかし、依然費用は高く、成功率はどちらも三〇%以下と、極めて低い。一回で妊娠するという保証はどこにもない。二、三回も挑戦し、二〇〇万も三〇〇万もかけて結局あきらめる夫婦も多々いるのである。

 体外受精でどうしてもうまくいかない場合は代理母制度がある。代理母の子宮に不妊夫婦の体外受精卵を戻し、出産してもらうのである。現在、日本の法律で認められていないため、この制度を利用するのには、米国まで行かなければならない。いくつかのエージェントが仲介に入るため、費用は一、三〇〇万もかかる。この方法にも成功の保証はない。一般的なサラリーマンにとって、二度も三度も挑戦することは不可能なことなのである。厚生省は日本人の七割が、もし不妊症になったとしてもこの制度を利用しないといっているとの報告をしているが、三割の人々が利用したいと願っているのなら、ニーズにこたえるためにも代理母制度を安価で実現できるよう国が行動を起こすべきではないだろうか。米国では代理母センターという会社が一九八一年に設立され、多くの生命が誕生しているのである。

 少子化は国にとって深刻な事態となっている。そのとき、問題となるのは「産めるのに産まない人」をどうするかということが大部分である。「産みたくとも産めない人」のことも、もう少しは考えてもらいたいものである。

 厚生省の役人や政治家の方々は不妊治療の現場に足を運んだこともないであろう。目に涙を浮かべ、真剣な顔でメモをとりながら、病院の先生から治療の説明を受けているご婦人方の姿を一回でも見たことがあるのであろうか。病室において、満面の笑顔で出産を喜んでいる夫婦のとなりで、妊娠失敗の話を悲しげな顔で聞いている夫婦のいたいたしい顔を見たことがあろうか。

 なぜ、産むための努力をしている人への援助がないのだろうか。不妊症を病気と認め保険の適用内とし、助成制度等も充実させるべきではないだろうか。人ごととしてとらえるのでなく、少数派であるから問題にする必要もないと言うのでもなく、もっと真剣に検討すべきである。

古賀 義将の体験記へ