体験記

クリエイト速読スクール体験記 '15

体験記'15 タイトル一覧

「速読」はおまけである

梅木 恒

もう大学は無理かなと思っていた

 クリエイト速読スクールに通いはじめたころ、私は人生の窮地に立たされていた。私は高校を卒業して浪人中に体調を大きく崩した。にっちもさっちもいかない状態が何年も続き、とても大学にいける状態ではなかった。病気のせいか薬のせいか、頭はもやがかかったようなぼんやりとした状態で、もう大学は無理かなと思いはじめていた。

 もがき続けるなか、クリエイトの出している書籍をきっかけに教室に通いはじめた。体調不良のせいで教室に通えない期間が幾度かあったものの、どうにか慶應に滑り込むことができた。

 大きく回り道はしたけれど、クリエイトで磨いた情報処理能力はどんな場所でも通用する強力な武器になるだろうし、道を切り拓いていく助けになるはずである。

ほかの速読とは少し違うぞ

 もともと速読に興味があった。小さいころから本が好きで、速く読めるようになりたいとつねづね思っており速読について書かれた本を読んでいた。しかし、こうした本を読むだけで速読が身につくはずもなく、ただ日々が過ぎていた。

 クリエイトが出していた『キャリアが高まる1日15分 速読勉強法』を書店で見かけた折にも、これまでの速読本と同じく当然のように手に取りパラパラとページをめくった。めくるうちに類書とはどこか違う感覚がしてくる。ロジカルテストやスピードチェック、イメージ記憶などといった頭を使いそうなトレーニングが並ぶ。視野拡大が全面に押し出されるほかの速読とはだいぶ違う。さらにパラパラとめくっていくと大学受験塾SEG(エスイージー)と提携しているとある。あのSEGと提携しているとあらば、効果がないはずはない。ここに通えば錆びついた頭がどうにかなるかもしれないという一縷の望みを胸に、とにかく一度体験レッスンを受けることに。

簡単には身につかないと納得

 いま思うと恥ずかしい限りではあるが、多少は頭の回転がいいはずだというわずかながらの自信は、体験レッスンで見事に打ち砕かれた。周りの人がすいすいと解いていくロジカルテストは思うように解けず、スピードチェックも思うように見つからない。しかもそれが数字となって突きつけられる。体験前に本に掲載されているトレーニングをして少し「予習」をしていたのでよくできるだろうとの思いとは裏腹に、頭がいいかもしれないという思い上がりは瞬く間に消え失せ、危機感が募りはじめた。

 体験レッスン後に各トレーニングの説明と結果の説明を受ける。その中で速読を身につけるためには、基礎的な情報処理速度を上げる必要があり、それは一朝一夕に身につくものではなく地道なトレーニングが必要だと言われた。

 世にあふれる速読本で速読が魔法のように簡単に身につけられることを謳っているのを訝しがっていた自分にとって、速読は簡単には身につかないと言い切られたのには、強い納得感があった。読むのが速い人や情報処理能力が高い人は鍛錬の結果であって、自分はそうしたトレーニングを怠ってきたから能力が低い。

 だとしたらクリエイトでトレーニングを積むことで、頭の回転が元に戻るだけではなく、以前よりもましな頭脳を手に入れることができるのではないかと思い、入会を決めた。

初めは気がせいていた

 入会して10回目ぐらいまでは毎回のレッスンの最後に行なう倍速読書(速読のための実践トレーニング)の読字数を伸ばそうと「速く読もう、速く読もう」とするあまり気がせいてしまって、本の内容が頭に入ってこず数字が伸びなかった。行き帰りの電車内や自宅での読書でもやはり速く読もうとしてしまって、本の内容が頭に入ってこない。もしかしたら速読を身につけられないのかもしれないと思いはじめる。

 しかし通い続けるうちにロジカルテストをはじめとする中盤の数字が上がりだし、次第に読字数よりもトレーニングの数字をよくするために教室に通うようになっていった。トレーニングを通じて錆びついた頭がぐんぐん回転しはじめるのが楽しくて仕方がなかった。

 興味の対象が頭の回転をよくすることに移っていったせいで、ほかのトレーニングと同じように余計なことを考えずに集中して倍速読書に取り組めるようになった。

「速く読もう」から「集中して読もう」に

 するとどうだろう。あれだけ伸ばそうと息巻いて空回りしていた読字数がするすると伸びはじめた。意識が「速く読もう」から「集中して読もう」にシフトしたせいで、速く読めるようになってきたのである。よくよく考えてみれば当たり前のことである。速く走ろうと思うだけでは速く走れるはずはない。速く走るための練習をして、結果的に速く走れるようになるのである。これと同じように、視野を広くしたり頭の回転をよくしたりして速く読むために必要な能力が鍛えられた結果、おのずと速く「読める」ようになるのである。

 至極あたり前のことなのだが、入ってしばらくはこのことに気づかなかった。一足飛びに速く読めるようになろうとするのではなくて、目の前のトレーニングを必死になって集中してやり続けることが重要なのであった。

意識的に速く読もうとしなくても、速く読める

 速読と聞くと、速く「読もうとする」ことだと思われることが多い。ほかの速読法を知らないので断定的なことは言えないが、BTRメソッドの速読は違う。速く「読める」速読なのだ。飛ばし読みをしたりするわけではなく、情報処理能力が鍛えられた結果、読書スピードが上がる。それゆえ、意識的に速く読もうとしなくても、自然と速く読めるのである。

 ただ注意したいのは、ゆっくり読んでもわからない本が簡単に読めるようになるわけではない点だ。難しいものは難しいものなりに、簡単な本は簡単な本なりに速く読めるようにしかならないので、この点は誤解が多いので注意が必要であろう。

真価は集中力とワーキングメモリの拡大

 「速読」スクールに通っているのに、こう言ってしまうのは気が咎めるが、あえて書く。

 「速読」はおまけである。

 その真価は各種トレーニングを通じて、集中力とワーキングメモリの拡大を実感できることである。この体験記を書いている段階で295回受講している。読字数自体には何の不満もない。それなのに教室に通い続けているのは、集中力とワーキングメモリを鍛えるためである。

 ワーキングメモリを鍛えられると実感できるトレーニングの一例は、ロジカルテストだ。「AはBより大きい。BはCより小さい。一番小さいのは?」というような問題を3分間で30問解くトレーニングである(ここに載せた例はごくごく初歩的なもので、レベルが上がってくるとさらに複雑な問題が出てくる)。

 このトレーニングでは、問題文を読みながら頭のなかでA、B、Cの大小関係を整理して答えを出さなくてはならない。AとBの大小関係を頭に留めつつ、さらにBとCの関係を分析して答えを出す。

 このように何かを頭に留めつつ作業するときに使う記憶力がワーキングメモリなのだという。この記憶力を高めることができれば、試験のときに役立つのはもちろん、仕事や読書など一時的に頭に情報を留めながら考え事をする局面で大きなアドバンテージになる。

 実際、BTRメソッドで鍛えたワーキングメモリと集中力は、大学入試では大きく役に立ったと思う。英語のリスニング対策で聴いていた「The Economist」のオーディオブック版は、等倍再生では遅すぎるように感じ3倍速で余裕を持って聞き取れるようになったし、慶應義塾大学環境情報学部の入試では、英語の試験時間120分のところを30分で解ききれるまでになった。

時間的な制約を理由に目を通す資料を減らす必要はない

 入学後の学業でも大いに役立っている。ゼミで資料を作成するケースでは、基礎調査の段階で多くの資料を読み込む必要がある。業界紙を数年分いっきに読んだり、関連する雑誌や新聞の記事を短期間でいっきに読み込み、意味合いを出さなくてはならない。

 それでも読むのが速くなったおかげで時間的な制約を理由に目を通す資料を減らす必要はないし、鍛えに鍛えたワーキングメモリのおかげで多くのことを考慮に入れながら資料を読み進めることができ、高い生産性を発揮できている。学業のほかにも、これまでにインターンで行ったどの企業でも、資料のクオリティの高さと提出までの時間の短さは評価してもらっている。

 教室に通いはじめる前も情報処理能力には自信があったが、いまは誰かに負けるということが考えられないぐらい自信がある。もはや頭の回転が問題になることはない。事務処理を素早く仕上げて満足する段階を抜け出し、どれだけ高い付加価値を出せるかが問われている。

いかにトレーニングの場で自分を追い込むか

 私は、本、通信教育、教室の3通りの方法でBTRメソッドのトレーニングを体験している。本や通信教育には自分のペースで進められる気軽さがあり、教室ではトレーニングの難易度を講師の方に絶妙なレベルに設定してもらえるなど質の高いトレーニングが期待できる。

 しかし、それぞれのトレーニング内容自体は大きくは違わない。要は、本にしろ、通信教育にしろ、教室にしろ、大切なことはトレーニングに集中することなのだ。

 事実、教室に通うだけで伸びるほど甘くはない。ただ回数をこなせば能力が上がるかといえばそうではない。自動的に能力は伸びない。教室は伸ばすための環境が整っているだけなのだ。伸びるかどうかは、いかにトレーニングの場で自分を追い込むかが重要になってくる。どれだけ気合いを入れて集中し力を出し切ろうとするかが最も重要である。これができなければ能力は伸びない。何かに打ち込んだ経験がある人ならわかるかもしれないが、質の高い練習をするためには集中して力を出し切ることが鍵になる。受講生のやる気があってはじめて意味があるのだ。

 BTRメソッドでは、つねに全力を出してトレーニングに臨むことが求められる。何となくレッスンを受けても能力は伸びてはいかない。ただ教室に行って90分過ごしていても意味はない。

 どれだけ自分自身にプレッシャーをかけられるか、ひいてはどれだけ自分自身と向き合えるかが重要なのである。レッスンを受け終えて余裕が残っているようではいけない。頭がくたくたになって何も考えられないというぐらいまで力を出し切らないとならない。これは本でトレーニングするときも同じだ。

 クリエイトは、「通うだけで速く読めるようになりますよ」などと甘くささやいてはくれない。地道に努力し続けることを求める速読スクールである。平坦な道のりではないが、その実りは大きい。

 教室に通いはじめてもうすぐ6年、受講回数にして300回近くなる。それでもまだまだ能力に満足していない。教室には優秀な方々がたくさんいらっしゃる。そうした人と一緒にレッスンを受けるたびに、果てしなく上は遠いと思うと同時に、彼らに追いつくために研鑽を積まなければと思うのである。

 『脳のワーキングメモリを鍛える 速読ジム』(日本実業出版社)所収

※梅木恒さんに関するブログ

2015-10-12
「見てぱっと処理できるということ」
2015-04-30
「成果物の質と提出するまでの時間の短さを評価されます」
2014-03-07
「自分のしていることの価値や意味を考える余裕がでてきた」
2013-11-18
「何をどのように頑張るのか、何に力を入れるのか」
2013-07-16
「もはや問題は頭の回転ではなく、」
2013-05-23
「自分にはまだまだ負荷を掛けられる余地がある」
2013-03-19
「3時間集中しきるのは、とても大変だった」
2013-03-17
「Uさんへのお願い」
2013-02-13
「自分自身の感覚の変化に敏感になりたい」
2012-10-17
「前半で消耗してしまい中盤は息切れしてしまった」
2012-10-16
「数字と一定の距離を置くようにした」
2012-07-10
「こんなにもアドバンテージになるとは思いもよらなかった」
2012-06-11
「相手に何かを伝えるとはどんなことなのか」
2012-06-01
「積極的に小説を読むようにしたせいか、イメージ記憶が安定し、調子が悪くても大崩れしにくくなってきた」
2012-04-26
「早く脳みそが悲鳴を上げるほどの疾走感を取り戻したい」
2011-07-04
「「やってやるぞ『!』」の感嘆符の部分の気持ち」
2011-06-15
「倍速での1分が3分ぐらいに感じられる」
2011-06-03
「勤勉なウサギになろう」
2011-05-22
「ただ真剣に取り組むだけではなく、それに加えて正しい進め方も重要なのだと実感した」