
この記事は、Duke MBAを取得された、鈴木さんの速読体験記ブログです。
鈴木 葉月
MBA留学の準備のために
私がクリエイトの門を叩いたのは2007年4月末、米国MBA留学の出願準備を進めていた時期であった。留学後、ケース課題や教科書をはじめ大量の文章を限られた時間で読み込むには速読のスキルが必要と考えたのが1つ目の受講理由だった。
2つ目の理由は、マネジメントの勉強をするためである。私はSE・ITコンサルタントとしてキャリアを積むかたわら、ビジネススキルを磨くために英検1級、中小企業診断士、IT系の各種資格と20代は資格取得に注力してきた。しかし、プロフェッショナルマネジャーとして総合的な意思決定を下し、様々な立場・バックグラウンドの人々を束ねていくには、もっと自分の”引き出し”を広げていく必要がある、そのために小説や歴史といった新たな分野に読書の幅を広げる必要があるのではないか、と考えるようになった。自分の読書経験を加速するためにも是非とも速読を身につけたいという気持ちも手伝って、受講開始を決意した。
私がクリエイトの速読を知ったのは今から十数年以上も前、高校2年生のときである。クラブ活動の後輩がSEGに通っており、「最近ハマっている」と楽しげに「速読による能力訓練」の様子を語っていたのだった。SEGには医学部・理工学部進学を目指す同級生・後輩が通っていた。彼らの知的水準・好奇心を満たせる内容であれば速読の訓練も受けてみる価値があるのではないか、という印象を当時から抱いていた。
実際に、無料体験でレッスンの感触を確かめた上で入会を決意した。
速読スキルで留学生活を乗り切ることができた
2009年7月時点で私の受講回数は110回を超え、現在も読書速度の維持・向上を目指して月に1、2回のペースで教室に通い続けている。訓練を通して得た速読の技術も役立っており、大量の文章を読むことに対するストレスが大きく軽減された。
留学生活の1年目を振り返ってみても、授業で出されるビジネスケースやテキストの課題などの読み物に追われる日々を速読で乗り切ることが出来た。全ての文章を完全に頭に入れるのは無理でも、読み物の目的によっては理解度を下げ読書速度を上げることでどこに何が書いてあるか押さえる、といった倍速読書訓練で得た読書スピードのギアチェンジの感覚(A・B・C読み)を用いたり、特定の用語が読み物のどこに書いてあるかを素早く拾い読みしたいときにはランダム/パターンシート訓練のおかげで目的の語句が目に飛び込みやすくなっていたりと、英文読解でもクリエイトで学んだことを活用している。
日々の読書でも速読には助けられている。私の読書速度は最高でも8000字/分程度と、受講生の中では飛びぬけて速い訳ではないと思う。それでも、往復2時間の通勤電車の中で、新書や250ページ程度の小説であれば1冊読み終えても時間のおつりがくる。1冊4~500ページで全2, 3巻といった分量の小説も、他の文芸・実用書と数冊同時に読み進めていっても1週間程度で読み終えられるために長編の作品にも手が伸びるようになり、読書のバラエティが広がったのもうれしい。
速読訓練で得られた技術は日常のふとした場面で活躍することもある。例えば、視野が広く取れるので美術館や博物館の展示説明を数秒で理解できる、音楽のスコア(総譜)で複数の楽器パートを一度に目で追える、集中力を高め緊張をほぐしたいときにカウント呼吸を行ってみるなど、知らないうちに事務処理能力が高まっていることが実感できる。
以下、私が速読の各トレーニングで留意している点や気付いた点をまとめてみた(教室での訓練内容のイメージをつかむひとつの手がかりにしていただければ幸いです)。
■授業前: 気持ちにゆとりが持てるよう、できるだけ開始5分以上前に教室に到着する。なるべく前の席に座り、体験の方がいないようであれば最前列で受講する。講師の指示が聞き取りやすく、また他の受講生の動きも視界に入ってこないので、最前列が一番集中して受講できる。他方、混雑時や3人がけでも「まあいいや」と割り切り、楽しい気分で臨むのが上達への近道だと感じている。
■カウント呼吸法: ここで心身ともにどれだけリラックス出来たかによって、その日のトレーニングにどれだけのめり込めるかが大きく左右される。リラックスしようと気負うよりも、息を吐きながら顔・肩などのこわばっている筋肉をほぐし、体の力が抜けていく心地よさを意識すると頭が空っぽになり、トレーニング中の集中力が高まる。
■サッケイドシート: 視野を目いっぱい広げるため、毎回目が皿になるような感覚を味わう。この感覚を引き続きのシート訓練に持ち込めるよう意識づけをする。また、よこ・たてよこ・大サッケイドやヘルマンシートの訓練時には標準のたてサッケイドとは違った感覚が生まれ、視野が広く保てることがある。以後のトレーニングも、ここで得た感覚を応用することで記録向上につながらないか、挑戦してみる。
■ランダムシート・パターンシート: 記録更新を追い求めて文字を追いかけたくなる気持ちをぐっとこらえる。遠景を眺めるように視野を広く保ち、シートもしくは「かな」・「県名」・「漢数字」などのブロック全体に意識を配ることと、文字を形でとらえることに留意する。辛抱強く続けていると、トレーニングの回を追うごとに探している字が無意識のうちに目に飛び込んでくるようになる。集中力が高まっているときは、一連の訓練中は顔全体でシートを見ている、もしくは顔がシートに埋もれそうな錯覚を覚える。
■たて一行ユニット: 序盤のトレーニングで習得した技術や感覚を総動員して取り組む。1ページ内の上・下段の各ブロックを視野に収め、「おじいさん/おばあさん」の「い」または「あ」、「山」または「川」、「行きました/行きません」の「た」または「ん」が目に飛び込んでくるよう意識を持つ。また、一定のリズムで進めるよう留意する。
■スピードチェック: ここから中盤のトレーニングに入る。スピードチェックでは、各行で目的の単語(例: 東北東)を見つけて○印を付けていく。慣れてくると、単語が見つかった瞬間に手で印を付けに行きつつ、目は次の行の単語を先回りで探し始める、といった並列処理を行うことで60秒以内に40行をクリアできるようになる。ペンでチェックする作業にとらわれて視野が狭まらないように心がけている。
■スピードボード: 頭の中に「3×3」の碁盤を思い浮かべ、冊子の「上へ2」といった指示に従って黒い碁石を指で滑らせるイメージを持って取り組んでいる。重要なのは明確なイメージを持つことと、一定のリズムを保って進めていくことだと思う。
■ロジカルテスト: 「AはBより短い」といった指示に従い、長さ・重さ・遠近順に頭の中で「A・B・C」の並べ替えを愚直に行っている。各レベルでパターンを覚えてしまえば、あとは比較スピードの速さの問題となる。上達のコツは、精度よりもスピードを重視し、8~9割の正答率で良いのでまずは時間内に完答を目指すこと、そして時間切れのプレッシャーに負けずに一定のペース/リズムで問題を解き続けることの2点にあると考える。この訓練は資格試験の本番力向上に効果があると感じる。
■イメージ記憶訓練: 上達するにしたがって持ち時間が短縮されるのが辛いところだが、1回目・2回目ともに時間内に全項目に目を通す。2単語の組み合わせからどれだけスピーディーにイメージを連想していけるかの空想力の勝負。正直私の苦手な領域だが、記入までの待ち時間も、思い付いたイメージを思い返して記憶の定着を図り、2回目に重点的に見直す箇所を考える作戦タイムにするなど、自分なりの工夫をしている。
■倍速読書訓練: 序盤で得た視野の広さと中盤で磨いた理解力・情報処理能力を総動員して取り組む。読み始めの前に1分間で読み切る目標のページに指を挟んでおいて時間内に全ページをめくっていき、全ての文字に目を通すことを目指す。
■コメント記入: 毎回のレッスンで新たに気づいたこと、向上した点、次回の抱負を記す。前向きなコメントを残すことで、気持ちよくその日のレッスンを終える。漠然と頭の中に残ったことや感じたことを文章化することが学びの定着や技術の向上につながることが多々ある。
文章力は極めて実践的なスキル
「きっと役に立ちますよ。ぜひ受けてみてください」と松田さんに誘われるがままに文章演習講座(文演)を受講した。受講にあたっては、普段あまり話す機会のない他の受講生と文章について意見を交わすのも楽しみであり、速読の訓練や日々の読書、メールやビジネス文書の作文などに臨むにあたり、一味違う視点が持てるかもしれない、という期待感もあった。
文演では、句読点の打ち方といった基本的な文章の作法の確認から始まり、過去の受講生が書かれた文章の推敲を行い、そして最終課題である要約文の作成に取り組んだ。要約では課題の文章を読み込み、所定の字数内で要点を抜き出していく。毎回の授業では自分の考えを発言してきた手前「口先だけの人間と思われてはならない」と自分に言い聞かせ、何度も推敲を重ねた。今まで学んだことが活かされているか、松田さんや受講生の皆さんに読まれても恥ずかしくない内容か、と良い意味でのプレッシャーを感じ、要約文とはいえ自分の作品を仕上げる意気込みで取り組んだ分、学びや気付きも大きかったように思う。
文演の受講を通し、自分が書き手・読み手のいずれの立場になったときにも文章に対する意識が高まった。書き手の視点としては、読み手に自分の言いたいことや要点が明確に伝わる文章か、説明に過不足がなく読み手の持つ知識で理解できる内容になっているか、に一層気を配るようになった。論点が明確で引き締まった文章が書ければ、日々の仕事や入学・資格の論述試験など多くの場面で有利に働くので、文章力は極めて実践的なスキルだと感じる。
また自分が読み手に回った場合に、悪文にツッコミを入れ良文を味わうのに必要な視座を得られた。例えば、ビジネス文書・提案書に目を通す際に、その要点に着目し誇大表現やこけおどし文句をばっさり切り捨てて読み進められるようになった。小説やエッセイを読む際にも、文演で他の受講生と議論し松田さんに指摘されたポイントが頭の中によみがえり、プロの物書きや永年読み継がれてきた作家の筆力に改めて気付かされるようになった。
読書経験を豊かに
速読訓練も100回の大台を超えているが、これからも継続して通学したいと考えている。速読もスポーツや語学と同様、トレーニングを中断してしまうと能力が落ちてしまうのでそれを維持したいというのも理由の1つではあるが、それ以上にまだ自分の中にはのびしろがあるという思いがある。次は読書速度10,000字/分の大台を目指してトレーニングに取り組んでいきたい。
また、速読の訓練と平行して文学・思想・芸術・歴史など、様々なジャンルの本を読み進めていきたい。今までも「岩波文庫100冊」や漱石の文学全集など、古典や名著と呼ばれる本に挑戦してきた。作品を鑑賞する目を養うということで言えば、高校入学後に楽器を始めたのをきっかけに自分がクラシック音楽を聴き始めたときにも、図書館で片っ端からCDを借り、お気に入りの音楽評論家の勧めるCDを購入して楽曲を聞き込んでいった。その経験が、今も音楽を楽しむ上で財産になっている。文芸作品も音楽同様、その良さが全て最初から分かるわけではないが、大量の良書に触れることで自分の中の読書の引き出しが増え、その中から自分の好みの作家や時間を置いて再び読み返したくなる作品が生まれてくるのではないかと思う。今後も、クリエイトで習得した速読力と文章の審美眼を道しるべとして、読書経験を豊かにしていきたい。