
目次
イメージトレーニングとは
イメージトレーニングとは、「身体動作を伴わないイメージなどの精神的活動によって,スポーツや楽器演奏などの身体的活動の事前練習を行うこと」を指します。
英語圏では、「メンタルリハーサル」または、「メンタルプラクティス」として学術的研究が行われており、運動パフォーマンスの向上に効果があることが知られています。
参考:Richardson, A, (1967), Mental practice: A review and discussion Part 1
イメージトレーニングの種類
筋感覚イメージトレーニング
実際に体を動かしたときの感覚を思い浮かべるイメージトレーニングです。
- 筋肉や関節の動き
- 力の入れ具合
- 外部から受ける刺激
などをイメージします。
水泳を例にあげます。クロールを行う際、前に腕を伸ばすと背中の筋肉(広背筋)が引きのばされ、水を掻き始めると手のひらに水圧がかかります。
このように、筋感覚イメージでは、動作にともなう身体内部の感覚をイメージします。
視覚的イメージトレーニング
筋感覚イメージでは動きに伴う感覚をイメージするのに対し、視覚的イメージでは、映像を見るがごとく、動作の様子をイメージします。
「プールサイドから見た自分の泳ぎ」といったように、第三者の視点で、自分の動作を俯瞰するイメージを思い浮かべます。
参考:Richardson, A, (1967), Mental practice: A review and discussion Part 1
イメージトレーニングの効果
技能の向上
イメージトレーニングは、技能の向上に役立つことがわかっています。
代表的な研究に、ハーバード大学で行われたピアノ演奏に関する研究があります。
参考:A. Pascual-Leone, D. Nquyet, L.G. Cohen, J.P. Brasil-Neto,A. Cammarota, and M. Hallett, (1995), Modulation of muscle responses evoked by transcranial magnetic stimulation during the acquisition of new fine motor skills, J Neurophysiol
この研究では、被験者を3つのグループに分け、それぞれ異なる練習方法を1日2時間、5日間継続させました。
- グループ1:実際にピアノを演奏して練習する
- グループ2:イメージトレーニングだけを行う
- グループ3:ピアノの練習は一切行わない
脳の活動を測定したところ、グループ1とグループ2で、運動野の活性化が確認されました。
実際の演奏についても、2つの観点(拍の取り方、タッチの正確さ)で、グループ1とグループ2が、実験初日より成績を向上させました。
ただし、成績の伸び幅は、実際に演奏を行ったグループ1が上回っていました。
動作を伴うトレーニング成果の促進
しかし、続く実験において、グループ1とグループ2の両方に、演奏を伴う練習を行わせたところ、グループ2の成績がグループ1の成績を大きく上回りました。事前にイメージトレーニングを行っていたグループ2の方が、演奏を伴う練習の効率が高かったのです。
これらの実験結果から、以下の論文では、イメージトレーニングと実際の動作の組み合わせが有効であると結論づけられています。
参考:A. Pascual-Leone, D. Nquyet, L.G. Cohen, J.P. Brasil-Neto,A. Cammarota, and M. Hallett, (1995), Modulation of muscle responses evoked by transcranial magnetic stimulation during the acquisition of new fine motor skills, J Neurophysiol
イメージトレーニングの注意点
イメージの元となる経験が必要
フローニンゲン大学のテオ氏らは、「未経験の動作に対するイメージトレーニングの有効性」を確かめるべく実験を行いました。
- 足の指を自由に動かせる被験者と、全く動かすことができない被験者を集める
- 被験者全員に、足の指を動かすイメージトレーニングを行わせる
- イメージトレーニング中、神経や筋肉に生じる電気的活動(筋電図)を測定する
当初から足の指を動かすことができたグループは、イメージトレーニング中、筋電図に反応が見られた一方で、足の指を動かすことができないグループは、イメージトレーニングを行っても、筋電図に反応がありませんでした。
実験の結果から、以下の論文では、未経験の動作については、イメージトレーニングは効果を発揮しないと結論づけられています。
参考:T. Mulder, S. Zijistra, W. Zijlstra, and J. Hochstenbach, 2004, The role of motor imagery in learning a totally novel movement, Exp Brain Res
イメージトレーニング単体では効果が薄い
イメージトレーニングによる技能の向上は、動作を伴うトレーニングの効果よりも小さいことがわかっています。
通常のトレーニングを行わずに,イメージトレーニングのみを行う練習法は、効率的でないといえるでしょう。
参考:A. Pascual-Leone, D. Nquyet, L.G. Cohen, J.P. Brasil-Neto,A. Cammarota, and M. Hallett, (1995), Modulation of muscle responses evoked by transcranial magnetic stimulation during the acquisition of new fine motor skills, J Neurophysiol
イメージトレーニングのやり方
トレーニングの前に取り入れる
イメージトレーニングと実際の動作の組み合わせることで、トレーニングの成果を最大化することができます。
短い時間でかまいませんので、トレーニングの前に、イメージと向き合う時間を用意してみましょう。
トレーニングの最中に取り入れる
トレーニングの最中、自分が理想とする身体動作をイメージすることが、パフォーマンスの向上に役立ちます。
たとえば、筋力トレーニングでは、使用する筋肉に意識を集中させることで、筋活性が上がることがわかっており、「マインドマッスルコネクション」という名称で知られています。
トレーニングが難しい場面で取り入れる
ケガの療養中や移動時間、本番直前など、実際にトレーニングを行うことが難しい場面で、イメージトレーニングを活用しましょう。
具体的な動作を伴わなくとも、イメージトレーニングによるパフォーマンスの維持が期待できます。
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劉 智秀 1999年東京都生まれ/栄東中学・高等学校/東京大学経済学部卒/クリエイト速読スクール二代目代表