大学合格体験記集

要約と入試小論文

北里大学医学部合格(西武文理卒) 松本 育弘(やすひろ)

友達は速読少年
 中学生のころ、速読ができる友人がいた。彼は本を図書館で毎日4,5冊借りて、次の日には全部読み終え新しい本を借りていた。授業中密かに本を読むスピードを見ていたが、30秒に3ページという考えられないものだった。ある日、多少意地悪な気もしたが、私と別の友人が本当に本の内容を理解しているのか尋ねたことがあった。彼はあっさりとあらすじや中身などを答えてしまった。速読できたらいいなあ、と思いながらも普通の人間にはそんなことできないと考えていた。
 だんだんその記憶も曖昧になってきていた高校1年の6月頃、私が通っていた塾SEGの夏期講習のパンフレットに「速読」の文字を見つけた。その講座は「速読による能力訓練」というものだった。誰でも速読ができるみたいなフレーズ(があったと思う)を見て、衝動買いをするように申し込んでいた。

SEGの速読
 夏休みに入り少しすると、その講座が始まった。初日、教室にいくと机の上に本が置いてあった。本の名前、『知的速読の技術』……怪しい。授業が始まるまで疑いながらも中身を読んでみると、視野を拡げたりだとか、頭の中で音読しないようにするだとかが論理的に書かれていた。
 授業は短い時間の訓練が連続的に行われ、そのあと訓練の方法を意識して本を読むというものだった。私は読書速度が遅く、始めたときは1分間に700字くらいだったものが、訓練を終える頃にはじっくり読んでも3,000字は超えるようになっていた。それは速読とは言えなかったかもしれないが、本を読む習慣を与えてくれたし、読んでいる内容がテレビでも見ているかのように頭の中で像となりスラスラと理解できるようにしてくれた。もしかすると速読ができるかも? が意外と簡単とできるんじゃない!? に変わっていた。
 講義の4日目までは速読の訓練で、最終日5日目のラスト1時間はアマチュアの人の書いた文章を読んでみて、どうしてその文章は面白くないのかをみんなで考えた。その文章が面白くないのはわかるが、なぜ面白くないの? と先生に聞かれると一言も答えられなくてうつむいていた。みんな黙っていると、先生が解説を始めてだめな理由を一つひとつ明らかにしていった。ある文章は抽象的な内容なので伝わってこなかったりなど、言われてみれば単純だが思いつかない考えだった。講座終了後改めて私が好きな作家の文章を読んでみて、なぜ面白いと感じていたのかを漠然と楽しいというのではなくて、ちゃんとした言葉を使って楽しさを人に伝えられるようになった気がした(実際は、私の日本語力不足のためにあんまり理解してもらえなかった)。

受験失敗、二浪、ネックは小論文
 大学受験を2回失敗したとき私はその理由を考えた。テストの点数はよい出来だったし、面接も悪くはなかった。ただ気がかりだったのは小論文の試験だった。たしかに小論文だけは出来がよくなかった。また、ある大学の面接では小論文の内容をどのくらい理解しているか問われた。そのとき、どうも私のいっていることが、本題とは全く別のものだったらしく面接官は口をポカンと開けて「それ違うんじゃないの……」という感じで眺めていた。もちろんその大学は不合格だった。
 そんなこともあり、どうにかしなければと思い参考書を買ったりしたが、冷蔵庫の中にある賞味期限が1カ月前に切れた大好物を食べようか迷うような危険さを拭い去ることはできなかった。そこで温故知新ではないが、高校時代の資料を片っ端から探していたら「クリエイト」を見つけたのであった。

クリエイトの速読訓練
 入試が終わった1週間後、私は池袋にいた。生まれてから2,3度くらいしかこの街には来たことがなかったので、ドトール・コーヒーの横にあり、2階にとんかつ屋が入った建物を見つけるのは一苦労だった。「文章演習講座」の受講が主な目的だったが、この1年で絶対合格しようと思っていたし、悔いなくやりたいことをしようと考えていたので速読も一緒に申し込むことにした。
 速読は大体、毎週1回のペースで通っていた。三カ月もしないうちに予備校での宿題や授業で出される問題を解くスピードが速くなっていた。また理解力もよくなった。1時間勉強するにしても以前はこなせなかった量が出来るようになっていた。過去問は今まで時間を一杯に使って解いていたが、入試前には半分くらいの時間で出来るようになっていた。
 カウント呼吸法も役立った。予備校の模試会場や入試会場で試験が始まる前、カウント呼吸をすることで気が落ち着き普段どおりの力を出せた。また、クリエイトで色々な本を読むことは受験勉強の息抜きにもなった。

文演「要約」の威力
 文演には17歳の高校生から白髪の混じったサラリーマンまで幅広い年齢の人がきていた。今まで同年代としか授業を受けたことしかなかったので、初めはなんとなく落ち着かなかった。文演自体はSEGで最終日に受けた内容の続きみたいな感じで、ある文章がどうして面白くないのか検討するものだった。明らかに違っていたのは、みんながあーだこーだと発言していたことだ。その発言のほとんどが考えてもみなかった内容で、一人で考えるよりも何人かで考えたほうがいいと感じさせるものだった。授業が進むにつれて文章のレベルも上がっていき、ぱっと見ただけでは完璧としか思えない作品も多くなってきた。そのような文のどこが悪いか、松田先生の話をきいてやっとわかるくらいだった。
 入試でもっとも役立ったのは「要約」のとり方を教えてもらったことだった。宿題で出された文章を自分なりに要約してきて、次の週の講座の前半で松田先生がプロの要約を示すものだった。全く的外れなところにはじめは線を引いていたが、要約の手順を覚え、何回もやっていくと自然と松田先生の要約に近づいていった。そして、現在在学している大学の入試小論文にも効果を発揮した。「観察することによって新たに発見したこと、を800字以内で書きなさい」という内容だった。内容は、家の犬が人の見ているときと、見ていないときでは全く行動が違うということを書いた。イメージとして浮かんできたことを、要約を作る手順でまとめあげることができた。

今もクリエイトに通っている
 大学生活もひと段落ついて最近またクリエイト速読スクールに通いだした。やはり定期的に通っていると集中力が違う。今一番役立っているのはイメージ記憶訓練だろう。体の器官などの英単語を覚えたりするとき、器官をイメージしてそこに単語をペタペタと貼り付ける感じで覚えていける。ほかにも、生物や化学の本を読んで理解しづらい箇所も映像として捉えられたりしてわかりやすい。
 あのとき速読も一緒にやっていてよかったと改めて思う。もしやっていなかったら多分いまこの場所にはいないだろう。