
目次
記憶とは
記憶には3つの要素があります。
情報を覚えること、保ちつづけること、思いだすことです。
認知心理学の専門用語では、記銘、貯蔵、想起といいます。
記憶とは、記銘、貯蔵、想起からなる認知機能(高度な知的活動)のことです。
記憶のメカニズム
記銘、貯蔵、想起からなる記憶のメカニズムについて、具体例を交えて解説します。
例として、「速読ナビ」という情報について覚えるメカニズムを見ていきましょう。
記銘
記銘とは、ある情報を覚えることです。
PCやスマートフォンに映る「速読ナビ」という視覚情報を目から入力します。
貯蔵
貯蔵とは、記銘した情報を保ちつづけることです。
「速読ナビ」について覚えている状態を意味します。
想起
想起とは、記銘・貯蔵した情報を思いだすことです。
検索エンジンのタブで閉じたあと、「さっき見た記憶の記事は何に載っていたっけ? そうだ、速読ナビだ」と思い出したとき、記憶の想起が生じたことになります。
想起は成功することもあれば、「さっき見たメディアの名前はなんだっけ、思い出せないな」と失敗することもあります。
記憶の想起に失敗することを、忘却といいます。
心理学における記憶の種類①:保持時間に注目
一口に記憶と言っても、電話番号をメモするために一時的に覚えるとき、受験勉強のために英単語を覚えるとき、はたまた自転車の乗り方について覚えるときでは、感覚が異なるのではないでしょうか。
記憶には、いくつかの種類があります。
まずは、記憶の「保持時間」に着目した分類をご紹介します。
感覚記憶
それぞれの感覚器官から入力された情報が、ごくわずかな間だけ保存されたものを、感覚記憶といいます。
感覚記憶は、短期記憶の材料としての役割を担う、もっとも保持時間の短い記憶です。
目による感覚記憶をアイコニックメモリー、耳による感覚記憶をエコイックメモリーといいます。
出典:道又 爾, 北﨑 充晃, 大久保 街亜, 今井 久登, 山川 恵子, 黒沢 学 (著), 2011年12月, 有斐閣アルマ,『認知心理学――知のアーキテクチャを探る〔新版〕』
短期記憶
感覚記憶として保持された情報のうち、覚えようと意図されたものは、短期記憶として保存されます。
ただし、保持時間は依然として短く、保持できる情報量にも限りがあります。
短期記憶については、以下の記事に詳しいです。
参考:短期記憶とは。長期記憶との違いやマジカルナンバーについて。
長期記憶
短期記憶に保持されている情報は、記銘を繰り返すことによって、長期記憶に移行します。
長期記憶は、半永久的に、大量の情報を保存することができます。
一言に長期記憶といえど、その内実は、さまざまな種類の記憶で構成されています。
たとえば、自転車に関する長期記憶といっても、「はじめて自転車に乗れた日の思い出」と「自転車の乗り方に関する記憶」とでは、性質が異なります。
こうした性質の違いに注目すると、長期記憶はさらに、次の2種類に分けられます。
- 言語化される「宣言的記憶」
- 言語化されない「非宣言的記憶」
宣言的記憶
宣言的記憶とは、言語化される情報をつかさどる記憶です。
宣言的記憶は、エピソード記憶と意味記憶が挙げられます。
エピソード記憶は、過去に自分が経験した出来事の記憶です。思い出の記憶ともいえるでしょう。
「いつ、どこで」という文脈情報と、「思い出す」という主観的な感覚を伴うのが特徴です。
「昨日、帰りの電車で速読ナビの記事を見た」という記憶は、エピソード記憶です。
参考:エピソード記憶とは。認知心理学の世界をのぞいてみよう。
それに対し意味記憶は、「クリエイト速読スクールが運営するメディアの名前は速読ナビ」というような、辞書的な知識の記憶です。
「いつ、どこで」という文脈情報はなく、「知っている」という主観的な感覚を伴うのが特徴です。
非宣言的記憶
非宣言的記憶とは、言語化されない記憶です。
代表例として、手続き記憶が挙げられます。
手続き記憶とは、技能や運動など、身体が覚えている記憶のことです。
「自転車の乗り方」などが該当します。
心理学における記憶の種類②:その他の記憶
記憶を分類するうえでは、保持時間以外の分け方もあります。
ここからは、記憶研究において重要とされる、その他の記憶についてご説明します。
フラッシュバルブ記憶
災害等のインパクトのある出来事の記憶で、一度の出来事であるにもかかわらず鮮明に残るものを、フラッシュバルブ記憶といいます。
展望記憶
展望記憶とは、これから行うべき行動に関する記憶です。「未来の記憶」ということもできます。
展望記憶と比較をする文脈において、これまでにご紹介してきた記憶は、回顧記憶とよばれます。
虚偽記憶
実際には経験していないことを、あたかも経験したかのように想起することを、虚偽記憶といいます。
以下の記事で、具体例を交えながら解説をしています。
参考:エピソード記憶とは。認知心理学の世界をのぞいてみよう。
記憶とコンピュータメモリの違い
スマートフォンやコンピュータなどの電子機器は、メモリの容量があらかじめ決まっており、容量の範囲内でデータの保存ができます。
「64GBと128GBでは、情報の貯蔵庫の大きさが2倍違う」と比較することができます。
人間の記憶もコンピュータメモリと同様、貯蔵庫のような仕組みになっていることは事実です。
しかし、貯蔵庫が、さまざまな処理機構と連結されている点に、コンピュータメモリとの違いがあります。
たとえ同じ情報であっても、処理方法によって、記憶容量が変化するのです。
10桁の数字を覚えるのは苦労しても、3桁-4桁-4桁の携帯電話番号はすんなり覚えられるのは、記憶の仕組みが理由なのです。
情報を処理することで記憶容量が変化したり、ある記憶がほかの記憶に影響を与えたりする点に、記憶のおもしろさがあります。
参考:鈴木宏昭, 2016年1月, 東京大学出版会,『教養としての認知科学』
劉 智秀 1999年東京都生まれ/栄東中学・高等学校/東京大学経済学部卒/クリエイト速読スクール二代目代表