クリエイト速読スクール体験記 '18

速読トレーニングと法律業務

平成22年度司法試験合格

天白 達也

序.

 私がクリエイトに通っていたのは10年ほど前であり、情報が古くなっているかもしれませんが、クリエイトにお世話になり、弁護士として働いている立場から、速読トレーニングの意義について実感しているところを綴らせていただきます。

 前提となる職務の経歴を簡単にご説明いたしますと、司法試験合格後、都内の大手法律事務所で主に企業関係の国内・国際訴訟を専門として約6年間執務した後、現在は司法修習の同期と一緒に 名古屋で法律事務所を経営しております。

1.速読を始めたきっかけ

 私がクリエイトで速読をはじめたのは、大学時代に、 弁論部 の先輩である瀧本哲史さんから紹介を受けたのがきっかけでした。瀧本さんは、私も理事を務めている競技ディベート関係のNPO「 全日本ディベート連盟」の代表理事でもあり、親しくさせていただいていたのですが、最近では出版や教育活動などを通じて一般にも知られているとおり、博学で頭のキレが非常に鋭い方です。その瀧本さんから、クリエイトの速読は方法論が理にかなっており、情報処理能力が上がるので、余裕のあるうちに受けてみるとよいという話があったので、瀧本さんが言うのだから効果があるのではないかと思い、体験レッスンを受けてみることにしました。

 クリエイトでの体験レッスンでは、速読のポイントが視野の拡大と情報処理の2点であり、それぞれの能力を鍛えるトレーニングを行うという説明を受け、読書速度が上がる理由に自分なりに納得できたので、クリエイトに通うことに決めました。

 以前から読書は趣味であり、読むのはそれなりに速いのではないかと思っていたのですが、その3倍速く本が読めるようになるのだとすれば、好きな本をもっとたくさん読めるようになるということで、非常に期待感がありました。

2.トレーニングの内容

 クリエイトの教室では、最初に呼吸を整えてリラックスし、それから各種トレーニングを行っていきます。後になって実感しましたが、リラックスして集中するというのは作業の効率を上げるために重要なことで、司法試験当日も各科目が始まる前にクリエイトのカウント呼吸を行いましたし、仕事をはじめてからも、集中力が落ちてきたかなと思ったときは、呼吸を整えてリラックスする機会を作るようにしています。

 レッスンの序盤では、視野を広げるために、文字を「見る」「見つける」ためのシートを使ったトレーニングを行います。個人的には視野拡大のトレーニングは苦手だったのですが、続けていくと、目の動き方が変わって流れるように文字が入ってくるようになる感覚があり、外で文章を読むときも、同じように文字を見ることができるようになりました。何となく視野が広がった気がするというのではなく、成績の記録を通じて数字で成長が分かるというのも刺激になり、トレーニングへの意欲が続きました。

 レッスン中盤のトレーニングでは、文字の内容を「理解する」「処理する」「覚える」ための教材を使います。色々な切り口で頭を使わせるトレーニングがあって飽きませんでしたが、一番印象に残っているのは、物の大小などの順序関係を処理するロジカルテストです。ロジカルテストでは「AはBより大きい、CはAより小さい。一番大きいのは?」といった問題を大量に処理していくというもので、頭の中でA、B、C、Dといった比較対象を並べ替える作業を続けていきます。普通の生活はもとより、現在の職業生活においても、これだけ集中して頭を使う体験はなく、疲労感は尋常ではないのですが、集中力や処理能力を鍛えるには非常に有効なトレーニングでした。これも毎回記録が残っていくのですが、処理速度が上がってくると、講師の先生が、より難しい問題へのレベルアップや、問題数を2倍にするなどして、容赦なく負荷を掛けてくれます。最初は「これは無理だろう……」と思うのですが、2~3回続けていくとだんだん慣れていき、いつの間にかクリアできるようになっており、着実に力がついていることが実感できました。

 最後は、実際の本を2倍速、3倍速で読んでみるという実践読書トレーニングです。そこまでのトレーニングで頭をフル回転させて集中力が高まっているからか、自然と目や頭が先走って働き、スピードアップしながらでも中身が頭に入ってくるという不思議な感覚に陥り、自分でも驚くような速度で本が読めます。ですので、教室を出て落ち着いてからだと、教室で読んだ時ほどは速く読めなかったりもするのですが――常にそんな速度で頭を回転させていてはおかしくなってしまうでしょう――、読書スピードは当然底上げされており、所定の回数を通い終えた頃には、普段の読書でも、入会時に測った時からの3倍速は優に達成できていました。ただし、後述のとおり、読む本の内容によって速度は違ってくるので、初見の難しい法律書でも3倍速く読める、というわけではありません。

3.法律学習と速読

 速読が法律学習に役立つか? ということですが、クリエイトに通う前と後で決定的に違いを感じたのは、「一度概要を理解した」教科書を読み直したり、復習したりする時のスピードが大幅に向上したことです。司法試験対策も含めて、法律学習で重要なことは、基礎的な事項について理解を固め、問題を処理する際に必要な情報を素早く引き出せるようにすることだと考えますが、そのためには、一度理解した(はずの)内容を繰り返し復習する必要があります。このサイクルが速く回るようになったことは、法律学習において非常に有益でした。

 逆に、「これから新たに理解する必要のある」内容を読み進める際には、速読でスピードが劇的に向上したという感覚はありませんでした。その理由は、クリエイト入会前にも説明があったのですが、読書速度は文字が入ってくる速度と文字の内容を理解する速度の遅い方で決まるところ、内容の理解が難しいと理解速度がボトルネックになってしまうからであろうと思います。

 法律学の議論には複雑なところが多い上、対立する見解の存在が前提になっていたり、他分野の法律も含めて、法体系や制度の全体を理解しなければしっくりこないところがあったりします。そのあたりを理解するための能力もトレーニングで底上げされているのだろうとは思いますが、法律学の議論を理解するためのハードルである、典型的な議論パターンの習得や、前提となる制度、関連裁判例の理解など、単純な文字の意味にとどまらない別の知識や理解が要求されるところにボトルネックがあるという感覚です。

 もっとも、そういった「別の知識や理解」を補うための読書スピードも上がっており、例えば、裁判例を読みこなすといった作業には、速読の経験が活きました。法科大学院では裁判例の要旨ではなく原文に当たって検討する機会が多々ありましたが――弁護士になってからも当然たくさん機会があります――、速読のおかげもあって、課題を読むのが辛いとか、時間がかかるといったことを感じたことは全くありませんでした。

4.法律実務と速読

 法律実務についても、速読の効果については、概ね上記で述べたとおりです。大まかに把握している内容を再確認するとか、大量の文書の中から必要な情報を見つけ出すといった場面で、速読が大いに役立っているように思います。

 弁護士が扱う問題の領域は広く、司法試験で問われた科目以外の法律が問題になることも多々ありますので、依頼者から相談を受けた事項について、回答の前提となる法律について正確かつ詳細な知識が頭に入っていないということは珍しくありません。そのような場合には、大まかな方向性を踏まえて文献などを確認した上で、対応を検討していく必要があります。その際の調べ物には、読書速度がそのまま活きてくるため、結果的に案件の処理が速くなります。また、法律業務の中では、証拠候補となるメールや社内文書など、大量の文書を読みこなす必要があり、それが業務時間の少なくない時間を占めることになりますが、こういった文書の処理も、速読ができれば大幅にスピードアップします。

 日々の業務で処理速度が向上した分だけ、仕事の処理も速くなり、その分ゆっくり考える必要のある業務に集中したり、様々な案件に関与したりすることができたのではないかと思います。今となっては昔の読書スピードを忘れてしまったので、速読のおかげで仕事がはかどっているぞ! とは思わないわけですが、弁護士の業務の多くを占める「読むこと」が速くなったことは、当然ながら、弁護士にとって大きな強みになっているはずです。もちろん、それだけが弁護士に求められる能力ではなく、まだまだ勉強しなければならないことは山積みですが、仕事をしていると、当初の想像以上に「読むこと」の比重が大きい職業だと実感させられますので、そこをトレーニングで鍛えたことは大きなアドバンテージになっています。

 また、扱う案件によっては、事実関係をどのように整理するのか、複数ある法律上の論点の相互関係をどのように考えるのかといったことを熟考しなければならない場合がありますが、この時に、トレーニングの中盤で行ったロジカルテストやイメージ記憶で取り組んだ、頭の中でイメージを膨らませる作業が役立っているように思います。トレーニングの時のように、短時間で爆発的に頭を使うという感じではないのですが、頭の中で色々な要素をイメージし、順番を並べ替えたりするように頭を使う際に、ふとクリエイトでやったトレーニングのことを思い出したりします。

 同じようなことを、法律学習や司法試験の解答作成の時にもやっていたのだと思いますが、受験生時代は不思議とそのようなことを感じなかったので、先の項目ではなくここで説明をしています。余裕をもって楽しいことを考えるときのほうが、鍛えた能力が活きるのかもしれません。私が真面目に受験勉強できていなかっただけなのかもしれませんが……。

5.最後に

 今思い返すと、トレーニング自体、集中して取り組むことでリフレッシュになり、普段読まない色々な本を読む機会にもなるということで、楽しく通えました。

 日々の法律業務にも速読が活きており、瀧本さんから伺ったとおり、学生時代に通っておいてよかったと実感しています。

 法律家をはじめ、読書力が重要になる職業を志す方々におかれましても、仕事のスピードや質を高める武器として、速読を体験されることをお勧めします。

 唯一残念なことがあるとすれば、(クリエイトのせいではないですが)たくさん好きな本が読めると思ったのに、弁護士になってみると仕事で時間を取られてなかなか趣味の読書に時間を割けていないということですが、それは今後のお楽しみにして、今後も速読で鍛えた力を活かして、より良い仕事ができるよう頑張ろうと思います。