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この記事では、当スクールの出版物『知的速読の技術』から、読書に関する記述を一部編集の上お届けしています。
読書に集中できない理由
「読書に集中できない」というのは、読書量アップに挑戦する人の多くが口にすることです。
ちょっと立ち止まって、この問題を考え直してみたいと思います。
誰もが読書に集中したい
なるほど、世は情報化社会と言われ、出版点数は年々増加の一途をたどっています。 生活の多様化に応じて、さまざまな内容、装いの本が書店にあふれています。
ビジネスマンや学生だけに限らずどんな職業・立場の人でも、広い意味での本、活字によって情報を得なければならない必要性は、高まりこそすれ低下のきざしはありません。
そんな中で、誰もが「もっと読まねば」という気持ちに追われています。本を速く読みたいということは、そこでは切実な欲求のように見えます。
読書を邪魔するもの
しかし、一方では、「活字離れ」ということも言われます。
読書アンケートの上位から近代の名作が姿を消し、古本屋では、一昔前に流行った難解な評論、小説が安値でほこりをかぶっています。
電車の中でハードカバーの本を読む人は減り、スマートフォンの画面を眺める人が増えました。
これらの現象をみると、現代人にとって読書の必要性は増加していながら、活字を読むということ自体は、かなり苦痛な作業になっているのではないかという気がします。
明治の昔ならいざ知らず、現代に生きる私たちにとって、読書よりもずっと楽にはいってくる情報メディアは、テレビをはじめとして実にたくさんあります。そのため、読みたいという気はありながら、ついおっくうなまま過ぎてしまいます。
読書に集中できない理由は「読むのが苦痛だから」
また、読書には一定時間の集中が必要です。仕事に勉強にそして遊びにと、いつも追いたてられているような現代人には、読書への集中を可能にするだけの余裕が、時間的にも精神的にも不足しているのではないでしょうか。
しかも、読むのが苦痛だといって読まずにいれば読書の習慣はつかず、読むことはますます苦痛になります。それを乗り越えるためには、結局たくさんの本を読むしかないのだとしたら、これはとんだ悪循環です。
「読むのが遅くて困る」という言葉は、実はこの「読むことの苦痛」を言っているのではないか、というのが私たちの考えです。
本に熱中し、読むことが楽しければ、読書に集中しているかどうかは気にならないはずです。
本の世界に没頭することができず、イライラして苦しいからこそ、もっと集中して読めないものか、と悩むのではないでしょうか。
読書に必要な能力とは
では、本を集中して読むためには、どんな力が必要でしょうか。
読書には読解力が必要?
本を読む力というものは、ふつう「読解力」と考えられています。
現在、日本の小学校から高校に至る国語の授業の中では、この「読解力」の向上が最重要課題として追求されている気がします(「話す・聞く」と「書く」の学習もありますが、十分な時間がそれに割かれているとはいえない状況です)。
それは、小説では、登場人物の心情をくみとることであったり、論理的文章では、筆者の論理を把握することであったりします。
そして、それらの能力の裏付けとして、漢字の知識、語彙力、文法的な知識、歴史的な教養が必要とされ、それらを総合的に身につけさせようということで、今の国語というものの学習内容ができ上がっているのではないでしょうか。
国語の授業で読解力はつかない
しかしながら、そうした国語の授業によって本当に読解力がついたという話は、あまり聞きません。
国語の試験は準備してもしなくてもほとんど点数が変わらない、と大部分の生徒は思っています。自分でうまく書けたと思ってもなぜかバツになることがあります。生徒にとっては何が正解なのかよくわかりません。うまい答案を書く生徒というのは、たいてい読書好きで、ふだんからたくさん本を読んでいるような子で、授業を熱心に受ける子とは必ずしも一致しないのです。
能力というのは、トレーニングの量に比例してついてきますから、読解力をつける一番の方法は、結局、多く読書をすること、これに尽きると言えます。
読書に必要なのは「活字慣れ」
しかし、読書の能率を決めるのは、はたして「読解力」だけでしょうか。たくさん読書する人というのは、読解力があるのはもちろんですが、それ以前に「活字慣れしている」という印象があります。字を読むということ自体に抵抗なく、スッとはいっていけるようです。
これをお読みのあなたがもしそういう方なら、「何だ、そんなこと、当たり前じゃないか」とお思いかもしれません。しかし、既に書いたように、現代に生きる多くの人にとって、それは必ずしも当たり前のことではないのです。
そうした、読解力以前の「活字慣れ」としてあらわれてくる諸能力には、確かに個人差があります。それを訓練で高めることによって、読書の質を高め、能率を上げることができるのではないかというのが、私たちのメソッドの出発点です。
読書に集中するためのトレーニング「BTRメソッド」
BTRメソッドの基本的骨格は、1986年に、日本語の速読技術を習得するための実践的トレーニングプログラムとして、クリエイト速読スクールによって考案されました。
この名称は、Basic Training for Readers methodの略で、「読書する人のための基礎的トレーニング法」という意味です。読書の基本的な能力を鍛えようという趣旨からの命名です。
読書が苦手な方でもしっかりとした基礎的な力が身につくように、一連のトレーニングは長い年月をかけて創り上げられ、いまでも改良を続けています。
読書に集中するための3つの柱
BTRメソッドの読書トレーニングには、3つの柱となるトレーニングがあります。
1. 目のトレーニング(認知視野の拡大)
本を集中して読むためには、①ページ全体を広く見ること、 ② 瞬時に多くの文字情報を識別できる能力が必要です。 文字情報を認識できる範囲を広げることを「認知視野の拡大」といいます。
本を読むことに慣れていない人に顕著なのが、認知視野の狭さです。 認知視野が狭い人は、集中して問題を解くとき、顔を本に近づけて、動かしながら確認しています。 一方で、 認知視野が広いと、1ページ全体をひと目で捉え、そこに書かれている文字を識別することが可能になります。
認知視野は、実は厄介な存在です。文字を認識するために集中すればするほど、注意を向ける範囲が狭くなってしまうからです。意識して経験を重ねていかないと、集中して文字を読み取ろうとしながら視野が狭くならないように広めに見ることはできません。「目のトレーニング」では、2つの矛盾する方向性の両立を目指します。
2. 脳のトレーニング(読書内容への集中)
認知視野が拡大されても、文字を目で速く追うだけでは意味がありません。文字情報を瞬時にイメージに変換したり、効率的に整理・理解する能力を鍛える必要があります。
たとえば、小説を読んでいるときならば、物語の細部を鮮明にイメージできればできるほど、内容にのめりこむことができます。また、論理的な内容の専門書や、勉強や仕事の資料を読む際にも同じことがいえます。本全体を通じた著者の主張や論理の筋道、あるいはキーワードの結びつきなど、文字情報としては必ずしも明示されていない内容を、自分なりに整理でき読み取れたときに、「理解できた」といえるはずです。
このように、読書においては読んだ内容を理解し、記憶にとどめることが必要不可欠です。BTRメソッドでは、「読書内容への集中」のトレーニングによって、文章に対する理解力を高めていきます。
3. 読書トレーニング
こうした文字の認知能力や読書内容へ集中していく力を、実際の読書の場で実践していく必要があります。そのため、BTRメソッドでは、「読書トレーニング」によって負荷をかけた読書を行い、ページ全体を広く見て、同時に頭の中のイメージをフル活用して、内容を理解する力を実践的に身につけていきます。
「目のトレーニング」 「脳のトレーニング」で意識的に取り組んでいたプロセスを、無意識のうちに習慣化させることが狙いです。
読書に集中できるようになると?
読書習慣が大きく変わる
読書に集中できるようになることの一番のメリットは、読書習慣の獲得にあります。
たとえば、電車の中で本を楽しめるようになります。トレーニングの成果によって、すぐに集中できるようになり、本の内容もこれまで以上に理解できる力がついたためです。
また、お風呂の中や、寝る直前まで本を手放さなくなった人もいます。 読書のスタミナがつくことで、普段ならだらだらとスマホを触ってしまうような場面でも、小説の続きを読むようになったという人もいます。
年に1、2冊しか読まなかった人が、自然と月に3、4冊、1年間では50冊の本を無理なく読む習慣がつくケースは何ら珍しくありません。
読書が苦手な人は、「読むのが遅い→読むのがおくう→読書から遠ざかる→情報処理能力が減退→ますます読むのがつらくなる」といった「遅読の悪循環」に陥っています。しかし、BTRメソッドによって情報処理能力を上げると、活字への抵抗感を感じにくくなり、以前よりもスムーズに読書に入れるようになります。
人は誰しも「読む力」を秘めています。しかし、様々な習慣やクセなどによって読むことが難しくなり、その結果読書から遠のいているケースがとても多いのです。
BTRメソッドは、目と脳のトレーニングを通じ、そうした遅読の原因を一つひとつ治すことで、誰もが本来持っている「読書のための力」を引き出しています。
勉強習慣が変わる
日々の勉強でも同様です。日々の勉強がスムーズに進むようになれば、勉強をしている際に感じていた抵抗感がなくなり、ますます勉強を継続できるようになります。 勉強時間が増えれば結果もついてくるので、勉強すればするほど楽しくなる、よいサイクルが回り出します。
ワーキングメモリも鍛えられる
読書習慣の獲得だけではありません。 BTRメソッドでのトレーニングを頑張れば、ワーキングメモリもパワーアップして、要領よく作業をこなせるようになります。
ワーキングメモリとは、脳の中のメモ帳のようなものを指す認知科学の用語です。たとえば、計算問題を解くとき、私たちは頭に数を一時的に残しながら暗算をします。 作文をするときは、頭の中で書きたい内容を思い浮かべながら文章を書きます。
優先順位をつけて同時処理を行う際にもワーキングメモリは働きます。試験問題を解きながら、時間ペースを調整するときなどです。このように、複雑思考や行動を行う際には、ワーキングメモリをうまく活用することが欠かせません。
しかし、ワーキングメモリの容量が少なく、頭の中にメモが1つか2つしかできなければ、たくさんの情報が入ってきたときに、思考はストップしてしまいます。しかし、たくさんのメモを取ることができれば、効率よく情報を整理することができます。ワーキングメモリには個人差がありますが、鍛えることもできます。脳は、使えば使うほどその機能が強化される「可塑性」という性質があるからです。
BTRメソッドのトレーニングは、ワーキングメモリに負荷をかけ、脳をフル回転させるため、パワーアップに非常に有効です。毎回、制限時間の中で自分が解けるか解けないかといったギリギリの難易度の問題を解いて負荷をかけ続けることが、様々な場面でのピンチを助けてくれることにつながります。
WEB・メール文章もサクサク読める
BTRメソッドは、読書のためのトレーニングですが、パソコンやスマートフォンで文章を読む際にも有効です。 画面いっぱいの文字を識別し、それをすぐにイメージ化して処理することができます。長い記事であっても、「読書トレーニング」の感覚で全体像をつかみ、細かく押さえておきたい情報だけは、ていねいにイメージしながら読むことができます。記事だけでなく、メールやチャットツールでも、瞬時に対応できるようになります。
最近では、試験対策に使える問題集や資料が数多WEB上で共有されています。 パソコンの画面では見づらいからといって、毎回資料を印刷していませんか? 画面上で勉強に集中できるのであれば、手間が大きく減り、スキマ時間を有効活用できれば、新しい問題にたくさんチャレンジできます。
広い範囲の文字を認識できるようにする能力、たくさんの情報を処理できる能力と、そのベースとなる集中力を鍛えることの重要性は、デジタル化が進んだ今後もなくなることはありません。 一生モノの能力となるので、頑張ってトレーニングに取り組んでみましょう。
受講生の声
これまでにご紹介したように、クリエイト速読スクールでは、読書に必要な能力を一つひとつ確実に鍛えていく、地味なトレーニングをご用意しています。読書速度だけでなく、総合的能力の向上を意図したプログラムです。努力を重ねた分だけ、しっかりと成果が収穫できる設計となっています。
どのようなトレーニングを行い、どのような成果をあげているのか。どうぞ、当ブログの「受講生の声」カテゴリをご一読ください。
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劉 智秀 1999年東京都生まれ/栄東中学・高等学校/東京大学経済学部卒/クリエイト速読スクール二代目代表