なおしのお薦め本(10)乙武レポートb | 教室ブログ by クリエイト速読スクール

速読ナビ by クリエイト速読スクール

教室のこと・速読のこと・受講生のスコア・
SEG講習生のスコア等々について書いています。

2007-03-20

小川なおし「作品」&お薦め本

なおしのお薦め本(10)乙武レポートb

  四番目は、著者がアメリカのバリアフリー取材で出会った車いすの女性の話です。彼女は「障害者リーダー育成プログラム」に応募して、一年間の研修を終えるところでした。日本人の「頑張って」という言葉に違和感を覚える彼女。著者より一つ年上です。

 「塚越さんは、いたずらっ子のような笑顔で言った。

 『〝頑張って〟と言われて、〝何をですか?〟って聞いたら、相手の方、黙っちゃって』確かに、車いすに乗って生活していると、〝頑張って〟と声を掛けられることは多い。塚越さんは、逆に私に質問を投げ掛けてきた。

 『〝頑張って〟って、すごく無責任な言葉だと思いません?』

 『ええ……』

 『その意味はね、〝私は頑張るわよ〟ではなくて、〝あなたが頑張って〟なんですよ。それが、〝頑張ろうね〟になると、〝私も頑張るから、あなたも頑張って〟になる』

 なるほど。要するに、『頑張り』を強要するなということだろう。

 『でもね、こっちに来て、すごくイイなと思ったのが、“Goodjob”という言い方なんですよ。〝よくやった!〟っていう』

 確かに、こうした言い方は、日本ではあまりされない。

 『“Goodjob”は、未来の頑張りに対してじゃなく、今まで頑張ったことに対しての評価じゃないですか。今まで頑張ったことに対して、〝よくやったね、エラかったね〟と誉めてあげて、力づけてあげるほうが、〝もっとやれ、もっとやれ〟という意味の〝頑張って〟よりも、私はうれしいなと思うんです』

 『頑張って』という何気ない言葉に対して、これだけ深い考えを持っているのは、立派なことだと思う。しかし、彼女にこれだけのことを考えさせてしまう、考えざるを得ない状況が、日本にはあるのだろう。彼女は、さらに続けた。

 『でも、どうして障害者は〝頑張って〟と言われると思いますか?』

 『頑張りが必要な社会だからですかね。障害者は、頑張らないとみんなと同じにはなれないっていう思いがあるから、〝頑張って〟って言われるんじゃないですかね』

 『あー、多分、そうでしょうねぇ。じゃあ、アメリカの障害者って、頑張らなくていいと思いますか? この地域では、車いすでのアクセスが進んでいますよね。そうすると、〝車いす〟ってことは、あまり問題になりません。その場合、障害者は頑張らなくてもいいと思いますか?』

 難しい質問だ。この答えは、彼女の口から話してもらったほうが良さそうだ。

 『うーん……そう思えてしまうんですが、実際はどうなんでしょう?』

 『私は、〝障害者としての〟頑張りは必要ないけど、〝人としての〟頑張りは必要だと思うんです。逆に言うと、〝障害〟を甘えに使えない。言い訳にすることができない』」

 この「頑張って」という言葉は、入院患者に対してもよく使われるのですが、評判は良くありません。なぜだろうと思っていたのですが、この塚越さんの分析でわかったように思いました。

 最後に、韓国の修道院で暮らす小学三年生クウォンくんの話を紹介します。クウォンくんには手足がなく、両親は行方不明だそうです。来日したクウォンくんと番組スタッフは、東京の街に出ます。

 「とげぬき地蔵で知られる高岩寺。その境内に、煙の立ち昇る場所がある。患っている箇所や頭など、自分の良くなりたいところに煙を当てる、あの場所だ。クウォンにそのことを説明し、どこに煙を当てたいかを尋ねると、彼はこう答えた。

 『それは、日本の文化なんでしょうけど、ボクはクリスチャンだから、そういうのは信じない。かといって、真似だけするのもイヤだし。やるなら、キチンと考えた上でやりたい』

 通訳の人が、申し訳なさそうに訳してくれた彼の答えに、私は耳を疑った。9歳の言う言葉ではない。修道院で育ち、神父さんを父親代わりとするクウォンの夢は、立派な神父になること。当然、すでにキリスト教徒だ。とは言うものの、まだまだ好奇心旺盛な小学3年生。試しにやってみるくらいしそうなものだが、彼は断固として拒否した。宗教を持たない私には理解できない部分もあるが、強い自分を持っているように感じた。

 そして、インタビューのなかで、クウォンにこんな質問をぶつけてみた時のこと。

 『クウォンは、手足がなくて良かったと思ったことがある?』

 ちょっとイジワルな質問だったかもしれない。だが、彼は平然と言ってのけた。

 『人は、手や足を使って罪を犯すでしょ。少なくとも、僕にはそういうことができないから、良かったと思う』

 これも、キリスト教的な考え方なのだろうか。残された短い手足で、いかに悪さをするか考えている私には、到底できない発想だ」

 著者ならではの質問に、その上を行く答えを返してきた9歳の少年。驚くべき人は、いるところにはいるんですね。  なおし

 

              ※クリエイト速読スクールHP

カテゴリ

検索

タグ

月別