2007-03-03
なおしのお薦め本(8)五体不満足b
最後に、親子の関係がわかる話です。
「中学1年の夏、こんなことがあった。
『ねぇ、この夏、友達と青森に旅行に行きたいのだけれど……』
ボクの方から、こんなことを言い出したのは初めてだった。『友達同士でなんか、危ないからダメ』『私たちも付いていかなくて大丈夫?』そう言って、反対されることを予想していたボクは、母の答えに面食らってしまった。
『あら、そうなの? 何日から何日まで家を空けるのか、早めに教えてちょうだいね』
『へ……? いいけど、どうして?』
『それが分かったら、その間に、私たち(夫婦)も旅行に行けるじゃない』
そして、8月。青森へ向かうボクらを見送った直後、彼らは香港へと旅立っていった。ここまで来ると、『親子の絆』『信頼関係』という言葉では片付かないものを感じるが、ボクは逆に、この『いい加減さ』が、かえってよかったのではないかと思う。
障害児の親というのは、子どもに対して過保護になりがちだ。それが乙武家の場合は、息子が旅行に出ているスキを狙って、自分たちも旅行へ行ってしまうという、お気楽さ。はっきり言って、障害者を障害者とも思っていない。でも、それがよかったのだ。
障害児の親が過保護になる要因としては、『かわいい』という気持ちよりも、『かわいそう』という気もちの方が強いように思う。親が子どものことを『かわいそう』と思ってしまえば、子どもはそのことを敏感に感じ取るだろう。そして、『自分は、やっぱりかわいそうな人間なんだ。障害者は、やっぱりかわいそうなんだ』と、後ろ向きの人生を歩みかねない。
それが、ボクの両親のような人間に育てられると、普通は4~5歳で気付くところ、20歳を越えるまで自分の障害を自覚できないような、ちょっとオマヌケな子が育つ。そのことによって、ボクは悩み苦しむこともなく、のほほんと育つことができた」
著者の母親の発言はこの本の中で何度か出てきますが、すべて強烈で、面白いものばかりです。目からウロコが落ちる、という表現がぴったりかもしれません。
なおし
