2008-07-11
なおしのお薦め本(63)『心を揺さぶる語り方』
クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。
一龍斉 貞水著
著者は、怪談で有名な講談師。親切にも、話術を上達させる近道を教えてくれています。
「芸でも仕事でも、一人前のことができるようになるまでは『見習い』と呼ばれます。これは、『未熟なうちは、見て習いなさい』ということです。
あまり『教えてくれ、教えてくれ』と言うものじゃありません。簡単に教わったことというのは、それだけ早く忘れます。そしてまた、教わらなくてはならなくなる。
それに対して、教わってもいないのに、自分で一生懸命に見て身につけようとした技術は、いつまでも覚えているものです。話術でもそうだと思います。
ですから、職業上の話術を身につけたいのであれば、まずは上手いと思う人と一緒に現場へ行って、そばで邪魔にならないように見せてもらうのがいちばんでしょう。
表面的な言葉遣いだけでなく、場の『空気』を読みながらの対応、駆け引き、相手との阿吽の呼吸のようなものを見て習う。それをできるだけ早く、実践の中で試してみる。
それが職業上の話術を習得する、いちばんの近道だと思います」
おまけにもう一つ、芸の厳しさを感じさせる箇所を引用します。
「私が若い頃、師匠の一龍斉貞杖から言われました。
ある日、師匠が、
『この話のここんところ、ちょっとやってごらん』
と言う。
で、やってみると、
『違う。そうじゃない』
と言う。また少し変えてやってみると、
『違う。もう一回やってごらん』
と言う。
何度やっても、違う、違う、違う。それでいて、どこをどうしろとは言わない。
とうとう面倒くさくなって、師匠の真似をしたんです。そのときに言われました。
『馬鹿やろう。それは俺の芸じゃないか。俺の声柄で、俺という人間がやるから意味があるんだ。お前みたいな声柄で、全然違う人間がやったって、ダメだよ』
それから、また自分なりの芸というものを考えながらやってみると、
『違う』
と言う。
『違う。もう一回』
そういうことが、さらに二週間くらい続きました。
ある日、突然、
『よし、できた。それでいいんだ』
と言う。
自分でも、どこをどう変えたから良いといわれたのかは、はっきりとは分かりません。しかし、『違う』といわれているうちに、自分なりの話芸というものをよく考え、それが板についてきたのは確かです。
『今しゃべったのはな、お前の芸なんだよ。お前が自分で身につけた芸なんだ。そういうものをつくると、お前も後で楽だし、俺もいちいち「ここをこうしろ」と言わなくて済む。だから、何週間かかろうが、何ヶ月かかろうが、それでいいんだ』
途中でキレていたら、芸は身につかないのでしょうね。
なおし
