なおしのお薦め本(56)『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』 | 教室ブログ by クリエイト速読スクール

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2008-05-22

小川なおし「作品」&お薦め本

なおしのお薦め本(56)『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』

 クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。

 

王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』                   

                                        森 達也

 

 誰もが知っている物語を妄想でふくらませた十五話。第一話が題名になっています。

 特に珍しい試みではありません。誰もが思いつき、心の中でやったことでしょう。ただこの著者ほど、話を練り込み、物語の輪郭を際立たせた人はいないのではと思います。

 第一話からの引用です。王様は裸だと子供が言ったあと、群集はひそひそ話を始めます。

 「……子供のすぐ隣に立っていた若い娘が、たまりかねたようにおずおずと言った。

 『この子の言うとおりだわ。私にも見える。王様は裸で歩いてらっしゃる』

 少しだけ群集は沈黙した。王様の行列はすぐ目の前を行進している。王冠を被った王様が胸を張って歩く。突きだした腹の下でオチンチンが揺れている。その後ろには二人の従者が、着物の裾を高々と揚げ持つような手つきをしながら、無表情に歩いている。

 『私にもそう見える。そうすると私はバカということになるのかな。仕方がない。バカは罪じゃない』誰かの声がした。それを合図にしたかのように、ざわざわと皆が騒ぎ始めた。『俺もバカなのかな』『私にもそう見える。王様は裸らしいよ』『そうよね。裸にしか見えないわよね』『なぜ王様は裸で歩いているんだろう』『風邪を引いたらどうなさるおつもりかしら』誰もが笑い始めていた。こんなときの群集はたとえようもなく残酷だ。今やもう、立派なお召しものだなんて誰も言わない。皆腹を抱えて笑い転げるばかりだ。だって王様のオチンチンが陽の光を浴びながらブラブラ。笑うなというほうが無理だ。

 ちょうどそのとき、王様の行列と群集たちとの距離はほぼ二メートル。笑い声が耳に入らないはずはない。従者の一人がじろりと群集をにらむ。大臣があわてて王様のもとに駆け寄りながら、『見ればみるほどすばらしいお召しものですなあ』と金切り声で叫んだとき、王様はふいに立ち止まった。額には玉のような汗が滲んでいる。『王様、どうなさいました』大臣が心配そうに声をかけたとき、王様はいきなり向きを変えると、城の方角に小走りに駆け始めた。」

 まだ続きがありますが、こんな感じです。著者が楽しんで書いていることが、読むほうにも伝わってきます。

 このような創作だけでなく、著者独自の考えも示されています。こちらの方が、著者がより読んでもらいたいところかもしれません。

 これから引用するのは、イソップの「ひきょうなコウモリ」の物語からです。

 「イソップは子供の頃から、どちらかといえば苦手だった。話そのものというよりも、たとえば幼稚園で先生がお手製の紙芝居で話を読み聞かせてくれた後に、『だからね、嘘ばかりついていると、誰も助けてくれなくなるのよ』とか、『遊んでばかりいると、こうして頑張っていた人に負けてしまうのよ』とか加える一言が、子供心に何となく、『うざってえな』(まあ正確にはそんな語彙はなかったが)と思っていたような気がする。

 少なくとも、川面に映る自分に向かって吼えて骨を落とした犬の話や、オオカミが来たと嘘ばかりついて最後にはオオカミに襲われた羊飼いの少年の話を聞きながら、『そうか、欲張りは身を滅ぼすのか』とか、『嘘をついたらひどい目に遭うんだな』と思った記憶などない。

 少年時代に父親が大切にしていた桜の木を斧で切り倒してしまった合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンは、怒る父親に自分がやったことを告白し、『その正直さは一千本の桜の木以上の値打ちがある』と逆に褒められました。

 イソップではないが、系統としては近いこの有名な逸話も(実際は作り話らしいけれど)、小学校に上がった頃に読むか聞くかして、何だか釈然としなかったことを覚えている。だからこんなフレーズを加えたくなる。

 父親が息子を褒めた理由は、正直な告白に感動したからではなく、息子が斧を手にしたままだったからです。

 子供は教条が苦手だ。大人が考えるよりずっと複雑で、それなりに内省しているし咀嚼する力もある。だからね、国を愛する心を持とうとか、誇りを持とうとかのフレーズを教科書に入れたがる人が最近多いようだけど、本気でそう仕向けたいのなら、あまり声高にならないほうがいいと僕は思う。逆効果だよ。子供を舐めちゃいけない。自分が子供の頃を思い出せばよい

 私は「父親が息子を褒めた理由は……」を読んで、確かにそれならそうだと合点がいきました。ちょっとブラックですけど。    なおし

 

             ■参考記事

      ※もりぞう爺さんの話(上) 

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