なおしのお薦め本(87)『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』 | 教室ブログ by クリエイト速読スクール

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2009-08-06

小川なおし「作品」&お薦め本

なおしのお薦め本(87)『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』

  クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。

 

経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか

               C.ダグラス・スミス

 沖縄在住の政治学者による提言です。

 まずはタイトルに関係するところから引用します。

 「この本は経済発展だけではなく、戦争と平和、安全保障、日本国憲法、環境危機、民主主義など、さまざまなテーマを取り上げている。

 この本の主張は、それぞれの問題に対する『常識』といわれる考え方が、本当のところは現実離れしたものであり、21世紀に生き残りたいと思うのなら、私たちが実際に直面している現状に合った考え方を常識にする必要がある、ということである。

 そうであるなら、『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』というタイトルは狭すぎるようにも思える。しかし、『経済は発展しなければならない』という考え方(これは経済学の客観的な結論ではなく、イデオロギー的な結論なのだが)の歴史を振り返ってみると、それこそが私たちの目を本当の現実からそらせた、『現実ばなれ現実主義』の張本人であることが分かる。

 世界のいたるところで同じことが起きているのだが、日本では特にそうかもしれない。所得倍増論は政府によって1960年に提案されたが、それはもう一つの、もっと奥行きのある豊かさを目指していた社会運動思想の代替物として、つまりその運動をつぶすための武器として提案されたということを忘れてはならない。60年安保闘争が目指した豊かさには、経済的豊かさだけではなく、平和、民主主義(仕事場での民主主義も)、社会的平等、正義などが含まれていた。所得倍増論、つまり、社会の豊かさはGNPによって計られるものだという、貧弱な豊かさを求める論理は、当時の民衆闘争に対する政府の答えだった。

 そして所得倍増論はイデオロギーとして著しい成功を収め、主流の常識になった。もっと深みのある豊かさへの思想は完全につぶされてしまったわけではないが、社会の片隅へと追いやられた。

 『それは理想としてはいいかもしれないが、なんだかんだいってもお金を稼がなくちゃね』とか『いやだけど仕事だから仕方がないよ』という、経済発展論の発想である。

 私はこういう位置づけに対して疑問を投げかけるためにこのタイトルを選んだ。経済発展論=所得倍増論が社会の常識であるかぎり、この本のそれ以外のテーマに関して考えることはできない。医学用語を借りれば、経済発展論は現代社会のなかの思考障害と呼ばれてもいいほど、思考力を押さえつける力をもっている。」

 たくさん引用したいところがあるのですが、これを書いているのが8月6日なので、「たくさんの戦争をするとどうなるか」という文章を選んでみました。

 「アメリカ合衆国は南北戦争以来、あるいはインディアンとの戦争以来、国内であまり自国民を殺していない。そしてひじょうにうまく、米西戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、その他いろいろ、関わってきた戦争のすべてを、海外ですませてきました。

 兵隊は殺されるけれども、アメリカの町が破壊されることはなかった。これはある意味で、軍事戦略として一つの理想と言えます。全部相手の国ですませること。その点で、アメリカはとてもうまくやっているはずなのですが、それでもやはり別のかたちで戦争は帰ってくるわけです。

 アメリカ社会はもとからとても暴力的な社会だったけれども、特にベトナム戦争以来、さらに暴力的になって、たくさんの人たちが殺されている。ギャングに殺されるとか、わけの分からない連続殺人事件が次々と起きたり、それは今現在も続いています。(中略)いろいろな仮説、学説があるけれども、もう一つ、アメリカではほとんど誰も議論しない事実があります。

 毎年毎年、何十万もの人たちが、殺人訓練を受けているということです。ひじょうに大きな殺人学校があって、アメリカのなかの何百万もの人たち━━主に男たち━━がその殺人学校を卒業しているのです。その殺人学校というのは、もちろん軍隊のことです。

 私も軍隊にいたことがあるから分かるのですが、軍隊の訓練のなかで、いろいろな技術も教えるけれど、一つ、軍隊の訓練の大きな目標があります。普通、人は人を殺せないものです。抵抗があって、なかなかできないし、やりたくない。敵だと言われても、実際に人間の体を狙って、撃てない人が多いのです。軍隊ではその抵抗をなくす訓練をするのです。殺せない人間から、殺せる人間への訓練です。

 それだけではなく、海外で実際に人を殺す経験をさせている。そしてアメリカ合衆国は、海外ばかりで戦争しているから、本当の防衛戦争を一度もやったことがない。誰かがアメリカ大陸を侵略して、それを追い出す、という戦争をやっていない。朝鮮半島とかベトナムや湾岸でなぜ戦争をしているのか、いくら兵隊に説明しても、兵隊はなかなか信じない。ですからシニカルになるわけです。ニヒリズム・不道徳主義の教育と殺人の教育を同時にやっていることになる。

 そういう教育を受けた兵隊が帰ってきて、教わったことをやり続ける可能性が高いことは予測できます。」

 気持ちのいい話ではありません。

 でも、この本で「知ること」によって希望が湧いてきたことは確かです。いわゆる「常識」ではなく、そもそもどうして今こうなっているのか、を知ること。

 なんだか世の中には納得できないことが多い、と思っている人にオススメします。    なおし

 

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