2010-03-11
なおしのお薦め本(100)『アナタの知らない裏ハローワーク』
『アナタの知らない裏ハローワーク』
青柳 直弥著
あやしげなタイトル。オレンジの帯に〈裏仕事師たちの肉声を聞け!〉とあります。ただ、売れればいいというやっつけ仕事でないことだけは保証します。では〈まえがき〉からお読みください。
〈子供を持つ多くの親は、皆自分の子供に向かってこう言う。
「もっと、ちゃんとした仕事に就きなさい」
ちゃんとした仕事ってなんだろう。
確かに、スポーツ新聞の三行広告に掲載されているような仕事は一般から見れば眉をひそめられる対象であり、底辺の仕事に映るのかもしれない。
しかし、そういった人たちは何をもってそう思うのか? 内情をよく知りもせずに、「真っ当な仕事じゃないから」なんていうのであれば、ちょっと待ったと言いたい。警官による不祥事、教師によるセクハラ、企業や役人の悪行三昧…もはや真っ当な仕事と、そうじゃない仕事のボーダーラインなんてものはあってないに等しい時代だ。一般求人誌に載らないから真っ当な仕事じゃないというのは時代錯誤な偏見である。
とはいえ、本書で紹介している職業の中にはヤミ金融業者や産廃業者など、言い訳の余地なく違法であり、糾弾されるべき対象のものもあるだろう。確かにそれらの仕事を決して肯定はできない。しかし、「勝ち組、負け組」にたとえれば、涙を流す人間の裏では、笑う人間がいるのが世の常。世の中には、「追う側と追われる側」、「売る側と買わされる側」、「騙す側と騙される側」、「頼む側と頼まれる側」、「見る側と見られる側」がいる、ということだけの話なのだ。
白でもなく黒でもない中間領域のことをグレーゾーンという。
ギリギリの、少しヤバい、表と裏の中間辺り、本書でスポットを当てたのはそういった仕事を生業とする人々である。ある者は腕で、ある者は頭で、ある者は言葉で…グレーゾーンを狡猾に生き抜く彼らの言葉から、これらの仕事のカラクリを知るとともに、「こんな生き方もあるんだ!」と知って頂ければ幸いである。〉
では、物干し竿売りのお話をどうぞ。
〈ある意味で撒き餌ともいえる「2本で1000円」の誘い文句に引っかかって、庭先に飛び出してきたお母さんたちに対して、いかに高く竿を売り付けるかが彼らの勝負。人によってそのやり方は異なるそうだが、例えば佐伯氏の場合はこうだ。
佐伯「基本的には『2本で1000円』って言うのを聞いて、『竿ください』って来るじゃない? 来たら、色々聞いてくるよね、『いくらなの?』とか。そういうのは全部、聞こえないフリ。シカトして、『お母さん、ベランダどこ、ベランダ?』って言いながら、とりあえずベランダに行くワケ。で、『どれが錆びてんの?』って聞く。その間も、基本的に質問には答えないんだよね。向こうも、どっちにしろダメになった竿があるから呼んでるわけじゃない? だから、まずその錆びてる竿を『ああ、コレもう使えないから、捨てるのに困るでしょ? じゃあ、持ってってあげるね』って言って、その場で折っちゃう。バキッて(笑)」
━━折っちゃうんですか!(笑)
佐伯「で、それをまず軽トラに載せちゃうの。他の竿も見て、錆びてそうなヤツがあれば、『コレももうすぐダメになっちゃうから、もう安いからまとめて替えちゃえば?』って言うのね。その場合は、お母さんもまだ2本で1000円ぐらいだと思ってるから、『ああ、そうね』って言っちゃうワケ。だから、その場でまたバキッて折って全部軽トラに入れちゃう。そうやって何も言わずに、アルミの一番高い竿を並べて、全部セッティングし終わった段階で、『いくら?』って聞かれたら、そこで『えーっと1本1万5000円だから、4本で…6万円だねー』とか言って(笑)」
━━詐欺ですね~。
佐伯「そうするとみんな、『え? 6万円もすんの? じゃあいらない、いらない』みたいなコト言うんですよ」
━━そりゃ、そうでしょう(笑)。
佐伯「そこで『これはアルミの竿だから錆びたりしないし、これ買っておけば一生大丈夫だから』って話をするんですよ。それでも向こうは、『高い』って言いますよね。そしたら、『だってコレ、ホームセンターでいくらで売ってるか知ってる? 東急ハンズで1万6800円で売ってんだよ』って」
━━ホントなんですか?
佐伯「いや、嘘なんだけど(笑)でも、それ自体は売ってないよね、同じ竿は。大体、ホームセンターで売ってるのって、持って帰れないから、伸び縮みするような竿しか売ってないんですよ。一本物は売ってないワケ。伸び縮みするヤツは安くは売ってるんだけど、あそこから水が入ってすぐダメになるし」
━━ホントは、そんなコトないんでしょ?
佐伯「いや、それは結構ホントなんですよ。だからその辺りを引き合いに出して攻めるんだけど、それでも高いから、いらないって言うじゃない? 『じゃあ、分かった』と。『もし、4本まとめて買ってくれるんだったら、1本、1万2800円にしてあげるよ』みたいなカンジで持ってくワケ」 〉
このように、驚くべき話が本人の口から語られます。あまりにとんでもない話なのですが、私が知人から聞いた話と似ています。聞えないフリをしてサッサと竿を運び、値段を聞いて断ったらすごまれた、ということです。
さて、それでも「二本で1000円」の誘い文句がまるっきり嘘かと言うと、そうでもないようです。続きをどうぞ。
〈佐伯「……で、『2本で1000円って言ってたじゃない? その竿ないの?』って言うじゃない? 『いや、あるけどさ~』って言って、軽トラのとこ行ってビューって出すと、2本で1000円の竿って1本しか積んでないんだけど、こんな細いんだよね(小指を立てながら)。なんか、あさがおとか巻くような、ああいうヤツ。それの長いヤツ。
━━物干せないじゃん(笑)。
〈佐伯「『2本で1000円でいいけど、コレだよ。しかも、さっき売れちゃってもう1本しかないし、セットじゃないと売れないから、売れない』って。もちろん最初っから1本しか入ってないんだけど」
━━ひどい話だ(笑)。〉
ここで思い出したのが、つい最近まで同居していた山崎さんの話です。
私が「物干し竿売りの「2本で1000円」ってインチキらしいよ」と言ったところ、「私も買ったことがあるよ。ちゃんとした竿だったよ。軽くていいんだ。普通の竿は太くて重いからイヤだね」と答えていました。
確かに、外の物干し台には、細い物干し竿が一本かかっています。それも、みょうに長くて、少したわんでいます。このおばちゃんにかかっては、物干し竿売りもバカ負けだったようです。というか、普通の商売をさせられてしまった、ということですね。
そういう諸々の話を総合すると、この本の内容は信憑性が高いと言えます。おすすめです。
