2007-07-02
なおしのお薦め本(25)トラウマの国
『トラウマの国』
この本のタイトルは、「傷ついた日本」という意味ではなく「自分をはっきりさせる目印を追い求める世界のこと」だそうです。雑誌に発表した記事に加筆したもので、十二編で構成されています。サブタイトルをあげると、本当の「自分」、「子供」の作文、「教育」の空回り、「能力」の時代、「話し方」の学校、ビジネスマンの「英語」、「地域通貨」の使い道、「夫婦」の事件、「セックス」を読む女、「日本共産党」の人びと、「田舎暮らし」の現実、「自分史」を書く、とさまざまです。あとがきにこう書かれています。
「本書をまとめるにあたり、私は『自分がはっきりしない』ことを妻に打ち明けました。すると、彼女はこう言いました。
『はっきりさせればいいのよ』
そうか、はっきりさせればいいのか、と目の前が開ける思いがしました。彼女の指摘がなければ、きっと私は原稿を睨んだまま、自分とは何か? と堂々巡りを続けていたことでしょう」
「トラウマのグループセラピー」やら「駄菓子も売っている文具店」やら「日本話し方センター」やら「日本共産党」やら「日本自分史センター」やら、著者はあちこちで人の話を聞き、それを元にして考えます。著者の訊き方がうまいのか、話の掬い方がうまいのか、フツウのインタビューではありえないような深さの話が登場します。
一箇所だけ引用します。著者が「個別指導塾の先生にお願いして二日間、作文指導の講師になった」時の、小六の木元君との会話からです。
「━━最近、殺人事件が多いけど、どう思う?
唐突ながら、戦闘系ゲームが好きな彼に訊いてみた。
『許せない』
即答する木元君。
━━犯人が?
『そう、特に子供を殺すなんてムカつく』
━━なんで?
『ルールを守らないから』
そう言って彼は、ゲームのルールについて目を輝かせながら解説した。ルールがあるからこそ、面白いのだと。
彼らはもしかすると、確固たるルールを求めているのかもしれない。あらためて読み返してみると、作文の内容はどれも自分で決めた毎日の生活ルールである。委ねるに足る大人の見本がないから、彼らは自分で模索しているのである。だから、きっと疲れるのだ。
木元君はストレスがたまった日は、マンガ本を遠くに投げて解消すると決めていた。これもまた、湯船の中でじっくり考えた彼なりの生きるルールである。
『ふつう』であるためには、ルールを固めなければならない。考えてみると、『将来に夢や希望をふくらませて成長していく』とは教育の方便にすぎない。そう決めておけば、教える側が楽になれる教育ルールなのである。
いずれにせよ『疲れがとれない』山本君(「お風呂大好き」と言う小学六年生)は、話しながらも瞼が重く眠くて仕方がない様子である。
『疲れているのは、僕だけじゃない。お父さんもお母さんもみんな疲れてると思う』
考え込むと憂鬱になりそうなので、とりあえず今日はゆっくり風呂に入ってぐっすり眠り、また明日にしよう」
平易な日本語を使っていながらも人を唸らせる、内容のある文章だと思います。私の能力では読み取れない部分も多々ありましたが、それでもいくつかは心に響きましたので、この本をオススメとさせていただきます。
なおし
