なおしのお薦め本(84)『 死んだ金魚をトイレに流すな』 | 教室ブログ by クリエイト速読スクール

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2009-06-03

小川なおし「作品」&お薦め本

なおしのお薦め本(84)『 死んだ金魚をトイレに流すな』

 クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。


死んだ金魚をトイレに流すな

                    近藤 卓

 スクール・カウンセラーとして30年近く働いてきた著者が、「いのちの教育」を説いています。

 まずは、題名の意味がわかる箇所を引用します。

 

 「アパート暮らしで庭がないからといって、死んだ金魚をトイレに流したり、キッチンの生ゴミと一緒に捨てるようなことはしないでほしい。そんな親の行為を子どもはしっかりと見ているものである。『ああ、取るに足りないいのちなのか』と、思い込む子どももいるだろう。

 ことさらに生き物のいのちの大切さを子どもに理解させようとしないでもいい。おとな自身が金魚の死を悼み、子どもと一緒になって悲しみを共有すればいいのである。

 昨日まで元気に泳いでいた金魚やメダカ、おたまじゃくしが、冷たく、硬く小さくなってしまったことを確認し、そうなってしまったら二度と生き返らないことを知る。そして、家族とともに大切に埋葬し、お墓の前でみんなと手を合わせる……。

 生き物の死はオンかオフではない。存在か無でもない。ゼロか100でもない。思いがあればあるほど、気持ちの切り替えは難しく、なかなか死そのものを受け容れがたいものだ。だからこそ身近な誰かが子どもと悲しみを共有し、死の不安の中にひとりぼっちにさせないことが必要なのである。そうすることで、『金魚は死んでしまったけれど、自分は一人じゃないんだ』と安心し、死の不安を乗り越えていける。つまり、死の不安を『棚上げ』することができるのだ。」

 

 この本の面白さは、著者が還暦を迎えて、自分の人生を振り返りながら持論を伝えようとしているところにあります。これを読んでみてください。

 

 「私が小学校六年生のとき担任だったH先生のことは、今でも鮮烈に記憶にのこっている。その頃私は、ある男子児童にかなり集中的に暴力を振るわれていた。私が一人でいると、何か言いがかりをつけては、すぐ殴りかかってきた。彼に殴られた級友はほかにも何人もいた。体も大きく、腕力も強かったので誰も逆らえず、私もいつも殴られるままになっていた。待ち伏せされて殴られたり蹴られたりしたこともある。

 そんな場面をH先生はどこかで目撃したのかもしれない。ある日、放課後のホームルームの時間に、教壇の前にその児童を呼びつけた。そして、椅子の上に彼を立たせ、自分の背と同じくらいの高さにさせると、かけていた眼鏡を外して、彼にこう言った。

 『お前は、何でみんなを殴るんだ? そんなに殴りたいなら、今、気がすむまで思いきり先生を殴れ。遠慮しなくていい、俺を殴りたいだけ殴れ』

 教室内は誰もが息を呑むようにして、ことの成り行きを見守っていた。最初は躊躇していたが、そこですごすご引き下がったら沽券にかかわるとでも思ったのだろうか、彼は促されるままに、拳骨で先生の顔をバシッと一発殴った。一度手が出ると、そこから止まらなくなった。ガスン、ドスンと不気味な音が教室内に響き渡った。

 夕日が入る薄暗くなりかけた教室で、唇に血をにじませながらH先生は、うめき声も上げずに、その児童が疲れ果ててやめるまで殴られ続けた。殴り疲れて、はあはあと息を弾ませている彼にH先生は静かに声をかけた。

 『気がすんだか。すんだらもうみんなを殴るな。いいな』

 うつむくようにして彼は黙って教室から出ていった。誰もがH先生のすごさに圧倒されて固まっていた。そんなことがあってから後は、私はその少年に殴られた記憶はない。彼の中に鬱積していたものを、H先生が一身に受け止めてくれたからだろう。」

 これはドラマではない、ということが驚きです。

 著者は大学卒業後に工業高校の教師になったのですが、「H先生の真似など、とてもできるものではなかった」と率直に書いています。ただ、この先生の行動が与えた影響は大きかったと思います。

 この、荒れた工業高校の教師時代の話も違う意味で凄いのですが、引用しません。ぜひ本書に当たってみてください。     なおし

 

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