2008-01-09
なおしのお薦め本(44)『まぬけの効用』
クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、今年最初のお薦め本が届いています。
今回は(内輪の)スタッフに評判の「オマケ」つきです。
『まぬけの効用』
表題以外に四十篇あまりの随筆が収められています。その中の「猜疑の効用」から引用します。
人を観察してこのように表現できたらさぞかし楽しかろう、と思わせるような文章です。
「食堂で、ライスカレーを食べている中年の男で、こういうのを見たことがある。つまり彼はスプーンで皿の中のものをしゃくって口に入れると、戻すスプーンですぐまたつぎの分をしゃくる。それもすぐ口のそばまで持って行って、唇から一、二寸のところで待機の姿勢をとらせておく。その間、前に口の中に入れた分をむしゃむしゃ食べている。だから第二軍はむろん口の中へほうり込むわけにはいかない。口の外で、自分の出番を待っている。第一軍が胃の中に入るや否や、第二軍がさっと口の中へ入れられる。
と同時に、スプーンは早くも第三回分をしゃくり上げて、従前の如く口外において待機の姿勢をとる。さてその人の眼を見ると、少し寄り眼になっている。その様子では、たとえ眼は見開いていても、何物も見てはいないのではあるまいか。心もまたライスカレーのうまさにのみ釘づけにされて、無念無想、天上天下ただ口中のライスカレーのうまさをのみ味わっているのではあるまいか。……不気味な、ものすさまじい眺めであった」
これは「自分のうしろ姿を想像する能力の欠如ということ」「猜疑心を持たぬということ」の例としてあげられています。猜疑心という言葉を、普通の人とは少し異なった意味で使っているわけですね。
「猜疑ということはなるほど賞めたことではあるまいが、自分自身の姿恰好、考え方、思想、行動に対する猜疑心となると、話はまた別だと私は思うのだ」
学者とは思えない柔らかな文章、独自の視点。著者がみずから発見したことを伝えたくてたまらないという様子が伝わってきました。笑える、というのは何よりのセールスポイントだと思います。
なおし
■小川なおしさん参考記事
※もりぞう爺さんの話(上)
オマケ
―なおしのメール―
松田さん、こんばんは。
高橋義孝に関するワード
